心理学のお勉強

臨床心理学

心理療法−総論


心理療法とカウンセリングという言葉は本来的には違う意味のものです。2つをひっくるめて心理学的援助、といいますが、これはアセスメントの結果、クライアントの問題が発見され、どの援助が適当か予測できた場合に行われるものです。

狭義の心理療法は、クライアントがこれまでの人生の中で形成したパーソナリティに、今ある問題の根拠があると思われる場合、それに働きかけて、よりよい形にシフトさせるために行われます。ここでいうパーソナリティには感じ方や価値観、人間関係など人としてあり方が含まれます。基本的には医学的な治療、つまり薬物療法などと併用して行われます。

これに対して狭義のカウンセリングは、特にパーソナリティを変えようというのではなく、誰にもいえないことを人に話すことで楽になる(これをカタルシス(catharsis)といいます)とか、見方が変わるとか、基本的に精神的には健康な人に対して行われる援助のことです。心理療法にはこのカウンセリング的要素が含まれていますので、この辺の違いはあいまいですが、医学的治療は必ずしも行いません。

ほかにも援助にはクライアントの周りの人々(たとえばクライアントが学生なら学校の先生とか)から、クライアントへの関わり方や環境の調整などに関する相談を受けたり、クライアントがもしほかのところに行きたい、とかいった場合にその橋渡し役となるリエゾンなどがあります。

これら心理的援助の基本姿勢はどのような場合でも狭義の心理療法の関わり方と同じ、つまり、人の話をちゃんと聞き、ちゃんとした知識を持って、クライアントが依存的になりすぎないよう、クライアント自らが選択できるような関わり方(すごくアバウトですが)をします。

ということで、狭義の心理療法が基本となりますので、狭義の心理療法について考えて見ましょう。

現代の心理療法は精神分析、行動療法、クライアント中心療法など、その種類を数えてみれば200以上といろいろありますが、共通して「クライアントと心理臨床家との間に信頼関係が築かれることが基本である」ことが言えます。

あくまで主体はクライアントであり、プロセスの中で重要なのはクライアント自身が変わろうとする力。それが基本です。

また、1つの心理療法には決定的な力はありません。それが200もの種類を生む理由なのですが、つまり、それぞれの方法は相補う関係にあるといえます。そしてどの方法も批判可能ですから、これからもどんどん変わっていく可能性があります。心理臨床家はそういうものをちゃんと理解したうえで、心理療法を進めていかなければなりません。

心理療法では基本的な条件を設定します。それが治療契約であり、カール・メリンジャーによると、目標、時間と場所、連絡方法の3つに集約されます。もちろんほかにもいろいろありますが、これは信頼関係を結ぶために重要です。また、心理臨床家自体にも引き受ける気持ちなどのしっかりした気持ちが必要です。

ばあ、と心理療法の名前を挙げてみますか?

精神分析療法、分析的心理学(いわゆるユング派)、人間性心理学(クライアント中心療法など)、現存在分析、実存分析、論理・感情療法、ゲシュタルト療法、認知療法、内観療法、行動療法、催眠療法、自律訓練法、森田療法、動作訓練法…。

日本でおなじみなものだけでも最低これだけ挙げられます。

また対象も1対1の個人の場合もあれば、6, 7人で(車座になれる人数)で行う集団療法、家族療法などがあります。

たとえば集団療法ならメンバーを等質にそろえたり、共通の課題に取り組みやすくさせる場合もあれば、より広くやるためにまったく異質で構成することもある。このような集団療法は人の中に入るのがあまりにも不得意だったり、警戒心が強すぎたり、他者に関わりすぎたり(特に妨害とかの破壊的な作用を及ぼす)する人には不適とされますが、集団場面であるがゆえに対人関係を経験し、メンバーの指示や働きかけ、指摘を受け、自分の対人行動の特徴に気づいて、変えていくことができます。「私にもそういう経験、ありますよ」なんていうのは、この最たるものです。

また家族の病理性というものを考えた場合、家族療法というものが存在します。いろんな理論が存在しますが、家族の誰かに偏りがあると、ほかの家族成員がそれを補う方向に偏り、その結果、補う人に心理的問題を生じる、といったように力動的な理解がそこではなされます。

たとえば父親がわがままを主張する。母親はそれに従う。すると子供はおかしいと思う気持ちを抑圧して、自分を変えていくと考えられます。それが元となって自己主張ができなくなり、症状として表れると考えるわけです。

また言葉が基本となりますが、遊ぶことで行う心理療法や、演じることで行う心理療法(サイコドラマ。いじめられる側がいじめる側になる、なんていうことからそれを理解したり、できない行動を試しにやってみる練習だったり)、体を動かす心理療法、芸術表現を使う心理療法(コラージュ、ダンス、音楽、俳句などなど…)もあります。

つまり、心理療法はかなり複雑なものなのです。また、それを習得するには相当な経験が必要です。それぞれは専門に譲りますが、ここまでで述べた基本をベースにしていっていただければと思います。