心理学のお勉強

臨床心理学

心理検査−投映法


投映法をひとことでまとめると「あいまいでどうとでも取れる刺激を提示して、それに対して回答あるいは反応してもらうことで測定する方法」ということです。

あいまいでどうとでも、という部分、つまりこの自由度が高いために、クライアントからすれば何を測られているのかわからずに済み、そのため意図的な操作が起きにくい。よって、検査結果にはクライアントの無意識的側面が表れてくるとされます。

このクライアントの無意識的な側面、つまり欲求や感情、情動などが映し出されることを投映といいます。投影とは違うので要注意。投影はフロイトが述べた防衛機制のひとつで、自らが認めがたい欲求を他者の中に写し出すことです。

さて投映法にはいろいろなものがありますが、代表的なものがスイスの精神医学者ロールシャッハによって開発されたロールシャッハ・テスト、モーガンとマーレイによって開発されたTAT、ほかにもSCTやP-Fスタディ、バウムテスト、DAP(drawn a person)、HTP(house-tree-person)、風景構成法、スクイグル、ゾンディテスト、色彩ピラミッド法、サイコドラマ、箱庭療法、遊戯療法などなど、言い出すとキリがありません。

たとえばバウムテストは「実のなる木を描く」ということで、それが大きいか小さいか、実がなっていないかなどを見ていくものです。そういえば一番新しい「教育心理学研究」(学会誌。2002年9月号だったかな?)にもこれを使って、不登校者のその後を追跡調査した研究が載ってて、結構面白かったです(大学の図書館で読んでみてください)。

これに似たもの、たとえばDAP(人を描く)、HTP(家と木と人を描かせる)、風景構成法(川、山、田んぼ、道、家などを検査者が言う順に描いてもらいながら、被験者が1つの風景にしていく)、スクイグル(殴り書きが何に見えるか聞き、それを元に絵を描く)などは一般に描画法、と言われます。これは描画が素材であり、また描くという行為が入っています。

顔写真を見てその顔がいいか悪いか聞くゾンディテスト、ピラミッドに色をつけさせる色彩ピラミッド法といったものも投映法です。

こういうものの特徴は、それ自体からは何がわかるのか推定できない、という点です。これによってクライアントが変なバイアスをかけずに済むわけです。

この代表的なテストがロールシャッハ・テストと言えるでしょう。これはインクのしみでできた色なし図版5枚と色あり図版5枚、計10枚を提示して、それがクライアントに何に見えるか、というものです。

この図版は非公開であり、精神分裂病(統合失調症)や人格障害、神経症の鑑別診断や人格理解に有効とされます。また検査そのものは統計的にまとめられたものであり、解釈もシステム的に行います。この辺は心理測定法「性格検査」のところに書きましたので読んでみてください。

量的な分析、つまりどこをどれだけ見たかとか、どのくらいの比率で見たかなどは「反応整理表」というものにまとめてクライアントの大まかな人格傾向の参考になります。これについてはエクスナーという人によってコンピュータ化されている部分です。

これに対して、その反応の流れの中でクライアントがどんな心的体験をしているのか、そこにはどんな欲動があり、防衛が使われているのか、といったことは精神分析的(つまり、力動的)な視点でなされます。

TAT(thematic apperception test)は主題統覚テスト、といわれるだけあって、絵に書かれている場面がどんな場面で、その中の人物はどんなことを考えているだろうか、感じているだろうか、どうしてそんな風になったのか、といったことを考えて1つの物語を作らせます。

標準的な方法では一日10枚の絵画を2日にかけて行います。ちなみに図版の総数は31枚。これはクライアントの年齢や性別に分けて違う絵を使うためです。また子供向けにはベラックによってCAT(children's apperception test)も開発されています。

これを作ったマーレイは、人が物語を話すとき、物語の人物を自分と同一化させ、その人の意識、無意識的な衝動や願望、感情などが表れているという仮説を立てています。そしてそこから「欲求−圧力分析」というものを考え出しました。実際にはこの分析法にこだわらないで解釈しますが、興味がある方は調べてみてください。

ロールシャッハ・テストと違って結果の整理にスコアリングを用いないのがTATの特徴です。

これら投映法のテストを分類すると以下のようになります。

構成的反応……粘土とかペインティング、ロールシャッハのようなもの。1つの構造、形態を作る。
構築的反応……色彩ピラミッド法がこれ。与えられた材料に沿ってクライアントが構築する。
解釈的反応……TATなど。クライアントなりの意味づけを行う。
浄化的反応……箱庭療法、遊戯療法など。刺激状況に対して自らの感情を開放する。
屈折的反応……しぐさや筆跡など。本来とは別の意味を持つ行動や動作の中に内的特性を見る。

この分類の上の方法ほどより深い部分を見ていく方法です。解釈的反応はかなり日常的。浄化的反応はアセスメントとともに治療的意味合いがあります。

このようなテストは目的をちゃんと考えて使う必要があります。また解釈にはかなりの経験が必要です。心理臨床家になるためにはこの投映法をうまく利用していく技術がいるといえるでしょう。