心理学のお勉強

知覚心理学

触覚


「触る」というのは人間にとって大事な感覚のひとつです。点字とか、そういうのが成り立つのもこれがあるからですね。

その「触覚」(正確には触圧覚。もっと正確には機械的刺激の感覚)は当たり前のごとく、皮膚から始まりまして、その皮膚には毛がある部分(有毛部)とない部分(無毛部)がある事には気づいていましたでしょうか?

実はこのうち、触覚にとって重要なのは、実は、毛がない部分です。

毛がない部分は全身の中でたった3ヶ所しかありません。指先、手のひら、そして、足の裏。ここだけです。なぜそこがそんなに大事なのか、今回はこれを考えることからはじめてみましょう。

まず、基本的なことを抑えておきましょう。皮膚には温度や痛み、そして機械的刺激を受け取る「受容器 receptor」が分布しています。具体的には皮膚の表皮や真皮の境界、真皮部分、そして皮下組織に分布していまして、それが脳の「体性感覚野」へとつながっています。

レセプターは大枠で「カプセルを持つ」のと、神経終末が枝分かれした「自由神経終末構造」の2つに別れていて、この違いは、刺激を脳へどのくらいの早さで伝えるかとか、1つの刺激を受け取るか、それとも、複数の刺激を受け取るか(「ポリモーダルレセプター」という)、とかの違いに絡んでいます。

さて、先ほどから「重要」としている無毛部の機械的刺激レセプターには、超急速に順応するパチニ小体(真皮に分布)、やや急速な順応を起こすマイスナー小体(これも真皮)、遅い順応のメルケル触盤(表皮と真皮の境界に分布)、そして、ルフィン終末(真皮に分布。遅い順応)の4つの種類があります。

これを「微小神経電図法」という皮膚の上から電気を流して、神経1本1本の応答を取る実験手段を使って分類してみましょう。受容野(応答する範囲)を単位として区切ってみるのです。そうすると、

1) 速順応I型単位(FAI) 2) 速順応II型単位(FAII) 3) 遅順応I型単位(SAI) 4) 遅順応I型単位(SAII)

の4つに分かれてくることがわかっています。

この4つ、1)は刺激の速度成分、2)は加速度成分、3)は速度と変位、4)は変位のみを発射することがわかっており、1)と3)のレセプターは数ミリ、2)と4)はそれよりはぼやけた受容野境界となっています。

これを先ほどの4種類のレセプターと照らし合わせると、1)はマイスナー小体、2)はパチニ小体、3)はメルケル触盤、4)はルフィン終末となることがわかるでしょう(わからない場合は、勢いでわかりましょう)

この4つはそれぞれ独立したチャンネルを持っていて、脳にシグナルを送っています。そのシグナルを受けるのは、先ほども言いましたとおり、大脳新皮質の体性感覚野です。

実は無毛部が大事なのは、この体性感覚野において、非常に広い領域を使って処理が行われているからです。

たとえば、指先は後で説明する「微細テクスチャ構造」などを刺激として受けています(ようは、触れてざらざらを読み取っているということ)。これは生きていくためには大変重要な作業でして、そのため、脳は体性感覚野上でこの指先からの刺激を受けるエリアをものすごく広く取っています。これが手のひらや足の裏にも言える、というのです。

ここで触覚系が受け取る情報をいくつか説明してみましょう。

ひとつ目に、小さな虫(ありとか)が体のどこかで動いていたらそれを除けようとするような「微細刺激の検出」というのがあります。

ヒトの場合、これに関しては、刺激の振幅が1μm以下の刺激でも検出できます。また、経験的にわかると思いますが、こういうのは指先だけで感じるよりは、手のひら全体のほうがよりよく感じます。これを「空間的加重」と呼びますが、この特質から、FAIIによって受容されている、と考えられています。

また、先ほどの「微細テクスチャ」つまり、ざらざらを見極めるということもあります。

心理学の実験では、精密研磨やすりをステンレスに貼り付け、それを台の上下にセットして、被験者に指先で触れてもらって、どちらがよりざらざらしているか聞くことによって測定したりするのですが、それによると、粒子サイズで1μm、粗さの違いでいえば3μmのものを区別することが出来ます

なぜ分別できるのかのその理由は実はまだ謎で、凸凹パターンを振幅情報から弁別しているのではないか、という有力な仮説があります。これを支持するとしたら、手のひら全体よりは指先のほうが感度が良く、感じるときは指先を動かしている、つまり、速度と加速度を取るものということで、FAIかSAIが働いていることになるでしょう。

2つの刺激が与えられたとき、それを分離して知覚できる「2点弁別閾」は1〜数ミリ程度と考えられています。これは先ほどの脳の「体性感覚野」で広いエリアを持つところほど感度が良く、例えば、指先では数ミリの違いでも認識できますが、ふくらはぎとか背中だと、40ミリ(4センチ)くらい開かないと2点が違うものだと感じない、という研究結果があります。

なお、このとき働いているレセプターは、刺激が動かないときは大きな値をとるけれど、刺激にもし動きがあるとしたら値が一気に数分の1になることから、SAIではないか、と見られています。

これらに加えて、どんな形をしているのか、という「実体触知(3次元形状認識)」があります。これがあるから日常生活ができる、といっても過言ではないですよね。

しかしこれは、単にレセプターだけではなく、手を動かしたりなんだリという能動的なことがあってはじめて出来る認識なので、周りの筋肉からの情報なども入って、複雑なものになっている、と考えられています。

レーダーマンは一般にこの能動的な触覚の時に起こる行動として、手を横に動かす=テクスチャの認識、物体に圧迫を与える=硬さ、静止接触=温度(熱伝導率)、持ち上げる=重さ、包み込む=全体の形や体積、輪郭に触れる=全体や細部の形の認識、これらがあるとしています。

この認識に行動が絡むため、理解が大変難しいのがこの3次元形状認識です。一言で言えば、まだ、よくわかっていない、といえるでしょう。

このように触覚という分野も知覚心理学の研究として行われていますので、ぜひ、見ていただければと思います。