心理学のお勉強

心理測定法

意思決定理論


心理測定法の最終回は「意思決定 decision making」がテーマ。意思決定というのは、複数の選択肢の中から、実行する1つの行動を選ぶこと。逆に言えば、1つだけやって、他はやらないと決めることです。

と、こう言葉で書くと簡単ですが、実際には結構大変。では目先を変えて、国家試験である「情報処理技術者試験」の試験問題から、この話に入っていこう。皆さん、問題です。さあ、解いてみよー!

「業務の改善提案に対する賞金が次の決定表で決められる。改善提案1と改善提案2に対する賞金の総額は何円か」(平成13年度「基本情報処理技術者試験」春季午前問14より)

【改善提案】
改善提案1:改善額20万円、期間短縮3日
改善提案2:改善額5万円、期間短縮2週間

改善額10万円未満 Y Y N N
期間短縮1週間未満 Y N Y N

賞金: 500円 X - - -
賞金:1000円 - X X -
賞金:3000円 - - - X

さあ、どうでしょうか。なんじゃこりゃ、とお思いの方も多いと思いますが、実はこれ、ある条件のときに何を選択するか?という、意思決定の問題なのです。ここでキーとなっているのが、「決定表」という言葉。

決定表、正式には「意思決定表 decision table」と呼びます。これは人間が行う意思決定を表という目に見えるものに置き換えたもので、一般的な形に置き換えると、こうなる。

a1 c(a1,E1) c(a1,E2) c(a1,E3)
a2 c(a2,E1) c(a2,E2) c(a2,E3)
a3 c(a3,E1) c(a3,E2) c(a3,E3)

ここで、aは「選択肢 alternative」、cは「結果 consequence」、Eは「事象 event」の意。cはanとEnの関数になっていて、表を書くときには、条件が成立する時にはYesのY、条件が不成立のときにはNoのNを書いておきます。ほいでもって、条件にしたがって実行されるものには、「実行する eXecute」のXを書いておく。

これを理解したうえで、さっきの問題を解いてみましょう。すると、情報処理の専門家でなくても、この表から答えを導けます。

改善提案1では、「改善額10万円未満」は当てはまりませんが、「期間短縮1週間未満」は当てはまります。上がNで、下がYのとき、Xになるのは、「賞金が1000円」というタスクですね。

改善提案2も同じアプローチでいけます。今度は、「改善額10万円未満」は当てはまりますが、「期間短縮1週間未満」は当てはまりません。ということは、上がYで、下がNのとき、Xになるのは、ほい、「賞金が1000円」

問題では、2つの合計を言え、といってますから、それぞれ1000円ずつ、合計2000円だ!ということになります。

ここで出てきた決定表、なかなか見ないものですが、でも、こんな図なら、見ることよくありますね。

desicion tree - 1

これ、「決定樹 desicion tree」といいます。これ、さっきの決定表を図にしてわかりやすくしたもの、と考えてよいものです。

さあ、ここまでを踏まえて、心理測定法に話を戻しますよ?

意思決定というのは、さっきも書いたように、1つを選んで他を捨てるということです。その時、その選ぶ1つが満足な結果につながるかどうか、これはその人が持つ「望ましさのものさし」(尺度ってこと)によって測られることになります。

例えば、こんな決定樹で考えてみる。

desicion tree - 2

これ、期待値として高いのは、明らかにa1ですね。何しろ、うまくいけば100万ドルだもの。でも、実際にこれにチャレンジするとしたら、a2のほうがいいかもしれない。お得感は明らかにa2のほうにあります。なにせ、2分の1の確率で結構な金額を手に出来るわけですから。

これつまり、「期待値(ここでは金額)=望ましさのものさし」ではないということです。そこにはどっちのほうがお得だろう、という「効用 utility」というものが働いているわけですね。そして、その裏には、「リスク回避 risk averse」か、「リスク志向 risk prone」そのどっちがいいか?というのが隠れている。

もし、リスクを冒してでも100万ドルが欲しいなら、a1のルートを選択するでしょう。言ってみれば、賭けをするコース。「クイズ$ミリオネア」で、ギリギリながらも1000万円まで挑むタイプです。

しかし、30万でもいいという人ならば、a2のコースを選ぶはず。こちらは堅実コース。行くところまで行って、途中でドロップアウト(drop out. 英語で「落ちる」とか「脱落する」の意)するタイプですか。

でもって、今まで出てきた言葉、これをちょっと置き換えることで、数字を使えるようにしてみます。

先ほどの「満足な結果につながる」ものを選ぶとは、「予想される効用が最大のものを選ぶ」ということです。そして、ここでいう「予想される効用」とは、「その結果が生起する程度で重み付けられた『平均』」のことと置き換えられる。ということは、その結果が起こりうるかどうか、つまり「結果の生起可能性」は、確率によって表すことが可能といえ、そのことを「主観確率 subjective probability」と呼びます。

主観確率は、「〜になるだろう」ということの確率ですから、「思い込み」を数学にしたものといえます。ちゃんと言えば、「主体」が決定する「予想」を表現する数学的確率ということ。ここで重要なのは、人間の主観的予想のすべてが数学的確率によって表せるということではないことです。表すためには条件が必要。その条件とは、

1. すべての不確かな「事象 E」は相互に比較が出来る。
2. 不確かさに関する判断は、推移率で示す。

この2つ。

当たり前ですが、ここで条件を満たして、数学的に確率で表せたとしても、人間が数学的な規則によって判断しているということではありません。ただ、そう表せるというだけ。これを勘違いすると、大変なことになりますので、ご注意を。

この主観確率の測定法には、4つの方法があります。

1. 標準確率実験との比較
2. 賭け
3. 得点ルール
4. 言語評価

これ以上の詳しい話はベイズ理論などになだれ込むので避けます。でもちょっと、こんなことを考えてみましょう。

ある女の子に新しい彼氏が出来たとします。ここで、仮定をひとつ置く。彼氏が遊びで彼女と付き合っている可能性を60%、本気で付き合っている可能性を40%とし、ほいでもって、遊びの場合、デートにつながる確率は25%、本気の場合は、倍以上の70%としておきます。まあ、最初の段階ですからね。このくらいかと(どういう判断か)。

さて、ここで、デートすることを考えてみる。これ、彼氏にとってみれば、デートするかしないか、というのは、遊びか本気かという1つの選択につながります。そしてこれが主観確率を更新するプロセスになるのです。

ここではハッピーにデートしたとします。このとき「条件付確率 conditional probability」は、遊びの場合、0.6*0.25=0.15(60%×25%=15%)。本気の場合は、0.4*0.7=0.28(40%×70%=28%)。この2つの事象の確率を足した43%、これがすべての可能性ですから、遊び、本気のそれぞれは修正されて、15%÷43%=39%(遊び)、28%÷43%=65%(本気)になります。これ、「事後確率 posterior probability」

つまり、デートしたということで、「本気である」という主観確率が高いほうに修正されるわけで、これが意思決定に影響する、と、こういうお話です。

ちなみに、この話は「ベイズ理論」というものでは、ということに注意してください。ベイズ理論では、起こった事態から主観的に判断する、つまり、「まあ、こうなんだろうなあ」っていう判断が許されるので、このようなことがいえます。でも、さっきも言ったように、人間は数学的規則で物事を判断しているわけじゃない。「デートしたくらいで本気? 笑わせらあ。2人でいるときにどう時間を過ごしたかとか、そういうのはどうなんだよ」とか、まあ、突っ込みはいくらでも入れられます。ですから、フィッシャーなどのように、より演繹的で客観性を求めるものでは、こんな簡単には話は進まなくなりますので、ご注意を。

ということで、意思決定のお話をしてみましたが、いかがでしたでしょうか。詳しい話は一切しませんでしたので、専門書などをチラッとでも見ておくことをオススメします。

ということで、心理測定法、終わり!