心理学のお勉強

学習心理学

生物的制約と準備性


学習というのは今まで「条件さえ用意してあげれば、必ず起こる」という前提で話が進められていました。レスポンデント条件付けも、オペラント条件付けも、そういった立場の理論なわけです。

でも、実際問題、条件さえ揃えれば本当に必ず学習は起こるのでしょうか? 今回のテーマはそこにあります。

1960年代の後半にアメリカの心理学者ガルシアが行った実験は、それを否定しました。これは「味覚嫌悪 taste aversion」に関する実験で、ようは気分を害するような条件と味覚刺激はどう関連するんだろうという内容のものだったのですが、この実験が明らかにしたのは、予想外にも、条件刺激CSと無条件刺激USを接近させて対提示するという「刺激の等価性」の条件ではなく、条件同士の「選択的な連合」のほうが行動には関係しているという結果でした。

レスポンデント条件付けの大前提「刺激の等価性」と矛盾する、というこの実験結果がもたらす意味は大きく、また、この実験では時間的に接近させても連合が形成されない場合があったことから、もうひとつの大前提「接近の法則」が必要十分条件ではないということがわかっています(もちろん、時間的に接近しているほうが学習の効果が高いのは事実ですが、それがすべてを決めるというわけではないということです)。

このことは、条件を揃えたからといって、学習は必ずしも起こるわけではないということを意味しています。まあ、常識的に考えて、そりゃそうだろうなあ、という感じ。まず、世の中の刺激が全部条件刺激になりうるとか、考えられないもの。

また、生物的な制約が学習に影響を与えることもわかっています。たとえば、恐怖を感じる対象はそれぞれの動物種によって異なるでしょうし、人それぞれでしょう。ある人は爬虫類はダメかもしれないけど、そっちが大好きな人もいるわけです。このような生得的傾向、本能的傾向のことを「学習に対する生物的制約 biological constraints on learning」といいます。

この生物的制約と事実上同じ考えなのが、セリックマンが言い出した「学習準備性 preparedness」です。つまり、あるCSとあるUSを連合させるように準備された状態でこの世に生まれてくるんだ、という話。そして、CSとUSの関係は連合のしやすさによってひとつの連続体をなしているという考え方です。

もちろん、レスポンデント条件付けだけじゃなく、オペラント条件付けでもこのような話はあります。

アメリカの心理学者ボウルズによれば、それぞれの動物種特有の防衛行動を「SSDR species-specific defence reactions」としています。たとえば、ネズミだったら、「逃走 fleeing」「凍結 freezing」「闘争 fighting」といった感じ。凍結ってのは、動かないでじっとしていることです。で、回避学習なんかの場合、このSSDRに含まれているものは比較的簡単に学習されるけども、そうでないものはなかなか学習しないと考えています。つまり、SSDRってのは、準備されたものなわけです。

もちろん、回避ばかりではなく、近づいていくほうにだってこの考えが当てはまります。たとえば、餌を得るというオペラント反応はさっきので言えば「species-specific food-eating behavior」ということになりますが、この学習の過程の中で、いつの間にやら生得的傾向のほうに流れていってしまう「本能的漂流 instinctive drift」というのがあることがわかっています。

つまり、学習によってなんでも変えられる、できる、という考えは間違いなわけです。そこにはそれぞれの動物種が持っている生得的なものがものすごく絡んでいる。まあ、よく考えてみれば、そりゃ、そうだろうという感じですが、学習心理学の前提はそうではなかったわけで、改めてその点を見つめなおす必要があるというお話でした。