心理学のお勉強

臨床心理学

心理アセスメント総論


心理臨床において一番大事なのは、クライアントがどういう状態なのか、それを正確に査定することです。これが出来なければ、後の心理療法なんか無理ですし、まず、クライアントを理解できません。

クライアントの状態を査定する、それを「臨床心理アセスメント」といいます。症状の背景となるものだったり、問題の性質や要因を明らかにするのがその目的です。この問題の同定と要因、そして形成過程の理解が、問題の解決への道筋を生み出すこととなります。

一番最初にクライアントが訪れたとき、この時は大変重要な意味を持ちます。表情が暗いとか、服装が乱れているとか、いろいろ外見的なものも大事ですし、もちろん心理検査によるもの、話を聞くことによって得られるものも重要です。このはじめてやって来た時のことを「インテイクの時期」と呼び、これが後の心理アセスメントに大きく影響していきます

ただ、「服装を見て判断する」のようなものは主観的なこともあるだろう非公式な査定ですから、ここはあくまで「心理検査などで判断」する公式な査定について触れていきます。

査定、つまりアセスメントは普通、面接と心理検査に分けられます。ともに、発達や障害、DSMなど精神医学的診断基準についての知識が必要です。特に、カウンセリングルームなど医師による診断が行われていない場合、その症状が疾患によるものだとしたら、精神科医に紹介するなどが必要ですから、知識がないでは通用しないと思ってください。

また、クライエント本人が問題を意識できているとは限らないので(それが出来ているなら、自分で問題を解決できる)、周りの人の話だったり、いろいろな査定結果から推定していく必要があります。このときにも多くの知識が必要となります。

面接の基本は会話であり、このときクライアントが安心して話せるようにします。基本的には心理療法の聞き方、たとえば本人の側に立つとかそういうのですが、自由に話せ、といっても何も言えないでしょうから、まず、査定者としての姿勢を示し、状況を設定します。なお、ここでいう姿勢というのは、目的のために協力すること、関連のありそうなことは何でも話してほしいこと、そして、秘密は守ることなどを指します。

クライエントがこれを理解してくれた後は、自由に、思いつくまま話してもらうことが大切です。関係ないようなことにも何かが含まれているかもしれません。ですから、必要なことを限られた時間の中で聞き取っていくことが、査定者には求められます。

まずは、その人が抱えている問題の質と程度を理解しましょう。緊張しやすい、人前には出たくないなど、本人が望んでいないことがどのくらい生活を困難にさせているかなどがこれにあたります。

そして、それについてクライエントがどれだけ問題と思っているかという意識が大切です。親に言われたから来た、という例も少なくないですから、この辺から、他者への依存度だったり、環境要因などが理解できます。

それに、いつから問題が生じて、どう展開したかという問題の経緯や、その人が今までどうやって生きてきたかという生活史も大事です。学業はどれだけ達成できたのか、交友関係はどうなのか、今どうやって生きているのかなど、情報を集めます。

これだけでなく、本人がどう話すかという態度も大事です。表情、口調から不安感や適応様式など、かなりいろいろなことが読み取れるものです。また、親や友達から話を聞いたり、もしも医師にかかっているなら、どのような薬がどれだけ出ているかとか、そういうことも聞きましょう。それが理解できるくらいの知識は必要です。

このような面接があって、心理検査が成り立ちます。とはいえ、すべてのクライエントに心理検査が必要とはいえません。緊急な場合はとりあえず治療が優先されますし、パーソナリティについての細かい情報が必要なときなどに心理検査は限定されます。

心理検査を実施するにはまず、クライエント本人から了解を取らなければなりません。これは、検査への動機付けにもなりますから、非常に重要です。自発的に検査を受けようという姿勢が見られるときと、そうでないときではまったく所見が異なることもあります。

このとき、面接と同じように査定者としての姿勢は明確に示しましょう。それでも本人の了解が得られないときは、たとえ検査が必要でも行ってはなりません

実際検査を行うとなったときは、どの心理検査を行うべきなのか、そのクライエントに適切なものを選択する必要があります。具体的には目的に即したものを、適切なレベルで、急ぐのか、精密性を求めるのか、それを考えて選びます。

心理検査は大別すると質問紙法と投影法に分けられますが、これらは普通、組み合わされて用いられ、テストバッテリーと呼ばれます。質問紙で意識的な世界を、投影法で無意識的な世界を読み取り、全人格的に理解します。具体的な話はこれからの回で述べましょう。

こうして行った面接、心理検査の結果は、最後に所見としてまとめます。クライエントの現在の状況、パーソナリティ要因、対人関係の側面、そして、できる介入の方法や本人の意欲の点を細かくまとめていきます。

こうしてまとめた所見は、まずクライエントに伝えます。児童や知的障害があるなどで本人には無理な場合は、保護者に伝えます。その場合、相談に乗ったり、助言をしたりすることもあるでしょう。心理アセスメントが医師から依頼されたものなら、その依頼者にも報告します。

どの場合でも心理療法的な配慮が必要です。どう伝えれば、クライエント本人にとって役に立つのか、そのための伝え方をしなければなりません。

心理アセスメントはこのように、クライエントを考えていく上で中心的なテーマとなります。これからの回で細かい個々について触れていきましょう。