心理学のお勉強

臨床心理学

不安障害 Anxiety disorder.


不安というのは誰にでもあると思います。それが質、量ともに健康な人と異なる状態のとき、それを不安障害と呼びます。

昔はこれを神経症とか、ノイローゼ、ヒステリーと呼んでいました。ただ、どの名前も正しくそれを言い当てておらず、また、意味があいまいなことから、1980年改定のDSM-3より、名称が変えられています。

症状は幻覚や妄想のように奇妙なものではなく、どんな人でも多少は理解できるものです。ただ、それによって生活が困難になっている、というのが不安障害で、この時、ストレスが大変重要なファクターとなっています。

ではまずはじめに、不安と恐怖を区別することからはじめましょう。

精神医学において不安とは、漠然として対象がない恐れの感情であり、それには必ず自律神経系の過活動を伴います。つまり、心臓がどきどきしたり、息が苦しくなったり、手足が震えたりする感じです。

これに対して恐怖とは、くもとか、高いところのように特定の対象に対する恐れの感情を指します。

不安障害は大きく分けると、強くて持続的な「全般性不安障害」、発作的な「パニック障害(あるいは、パニック・ディスオーダー)」、外出に対する恐怖である「広場恐怖」、特定の状況に対する「特定の恐怖症」、人前に出られない「社会恐怖」、手を洗わなければ気がすまないなどに代表される「強迫性障害」、そして、強いストレス状況の後に発生する「外傷後ストレス障害(あるいは、PTSD)」などがあります。

不安障害では、パニック発作がよく起きます。これは、文字通り発作的に起こる強い不安のことで、めまい、動悸、息切れなどの体の症状を伴います。それぞれ長くて30分から1時間くらいなのですが、時に、そのせいで自分がコントロールできなくなって、死んでしまうんじゃないか、と思ったり、またこういうことになるんじゃ、とそれが頭から離れなくて、さらにひどくなります。体に異常があるんじゃないか、と病院に行っても何の問題もありません。こうやって不安が大きくなってくると、社会生活を送るのが困難になってきます。

DSMでは、それぞれの不安障害ごとに基準を設けています。ここでは、それを1つずつ見ていきながら、障害を押さえていきましょう。

まず全般性不安障害について。これは昔、不安神経症と呼ばれていました。考えたってしょうがない取り越し苦労な不安を持ちつづけ(たとえば、出かけた子供が交通事故に遭って死んじゃうんじゃ、と気になりだしたら止まらない)、それを自分では払いのけられません。不安が長期的に持続するのが特徴で、落ち着きがなくなったり、緊張しっぱなしっだったり、疲れやすくなります。パニック発作のように、特定の対象や場所で起こることはなく、一日中そんな感じです

基準を見てみましょう。

1. さまざまな出来事や活動についての過度の不安や心配が、最低6ヶ月以上続き、起こる日と起こらない日を比べたら、起こる日のほうが多い。
2. その不安をコントロールできない。
3. 不安には以下の6項目中、3項目を伴う。
・筋緊張 ・疲労感 ・集中困難 ・落ち着きのなさ、いらいらすること ・易刺激性 ・睡眠障害

つまり、典型的な心配性です。何をしても、リラックスなんてできません。特に、身内の健康や、恋愛、仕事、学業、財産などがテーマとしてよく起こります。このとき大事なのは、それが「特定の恐怖」ではないという鑑別と、また「うつ病」のようなものとも違う、という点です。そうでないと、そこから先の治療が大きく異なってしまいます。

広場恐怖は、社会に出て行けない不安障害です。電車に乗れない、外を歩けない、外に出ようとするとパニック発作が起きるといったことが主な症状として見られ、でも、誰か信用できる人についていってもらえれば、結構平気だったりします。また、電車に乗れないといっても、混雑していなければ乗れたり、外に出れないといっても、雑踏でなければ大丈夫だったりします。ですからここでいう広場とは、「物理的に広い場所」ではなくて、「心理的に広々としていて助けを呼べないような状況」のことを指します。

―DSM-4における「広場恐怖」の基準―
1. 逃げ出すことが難しい、もしくは気まずいような場所、状況にいなければいけないことへの不安。
2. そのような状況が回避されるか、そうでなければ大変な苦痛とともに耐えている。

この広場恐怖の多くはパニック発作を伴います。そして、不安な状況下では「また前みたいになるんじゃないか」と考えたり、そう考えることすら避ける恐怖性回避が見られます。このとき、特定の恐怖症や、PTSDなどとは区別します。

強迫性障害は「どうしても手を洗わないと気がすまない」のような症状で有名です。ほかにも、一度計算して正しいことはわかっているのに何度も計算しなおしたり、やたらと整理整頓したり、異常なほどに買いだめだりなんてことがあります。行動そのものが過剰かつ不合理で、それが強迫観念、つまり、しなければならない!に左右されるとき、障害として認められます。

―DSM-4における「強迫性恐怖」の基準―
1. 強迫観念、あるいは強迫行為のいずれかがなければならない。
2. 強迫観念とは、反復性の思考・衝動で、それが不安を引き起こし、本人は無視したり抑圧したりしようと努めるものである。
3. 強迫行為とは、強迫観念に呼応する行為で、やらずにはいられないような反復性の行動あるいは精神活動のことである。それらの活動は、苦痛を予防、軽減する目的でなされる。

この障害はしばしば見逃されます。なぜなら、実際の面接現場ではわかりにくいし、このようなことをクライアントも言わないからです。ですから、十分な質問をして、確認することが大事です。

特定の恐怖症は、高所恐怖、閉所恐怖、飛行恐怖、動物への恐怖など、さまざまなものが見られます。この多くは我慢してしまうことが多く、パニック発作を伴うことがあります。程度に差がありますから、生活に大きく障害が見られてはじめて、恐怖症と診断します

社会恐怖もそれによって生活が大きく損なわれているとき、不安障害として診断します。基本的には、知らない人の前に出て注目を浴びることを嫌うわけですが、人前で食事ができない、赤面する、声が振るえるなどがその代表的な症状です。

外傷後ストレス障害は、通称PTSDで知られます。これは、PostTraumatic Stress Disorderの略で、日本では阪神大震災以降、注目を集めた障害です。極度の外傷体験、つまり、死とか自他の負傷を伴うような状況を体験したり、目撃したあと、その出来事をフラッシュバックのように再体験したり、それに似た状況を避けたり、また感覚が麻痺してしまうことが主な症状です。

―DSM-4における「外傷後ストレス障害」の基準―
1. 実際の死、瀕死の状態、自他の負傷などを伴う外傷的事件を経験している。
2. その外傷的事件は持続的に再体験される。具体的には、記憶、夢、フラッシュバックが起きたり、その事件を象徴するような場面に接近すると苦痛を感じる。
3. その事件に関連した刺激には持続的に回避が起きる。たとえば、事件そのものを忘れてしまったり、特定の活動をしなくなったりする。
4. 全般反応性の麻痺を経験する。他者から分離されているような感覚、未来が短縮したような感じなどがそれである。
5. 不眠、易刺激性、集中力低下、過度の警戒など覚醒度が亢進する。
6. 障害が少なくても1ヶ月以上持続する。

ここで重要なのは、「障害が少なくても1ヶ月以上持続する」という点です。これを満たさない場合、つまり、事件の4週間以内に起こり、4週間以内に消失する場合は、「急性ストレス障害」と呼び、区別します

なお、今まで不安障害として位置付けられていた心気神経症(心気症)は「身体表現性障害」に、また、以前ヒステリーと呼ばれ、多重人格(同一性障害)や離人症などという名前で知られる転換性障害や解離性障害は、独立したカテゴリーにそれぞれ移動しました。

ちなみに、身体表現性障害とは、身体疾患としては完全には説明できない症状を上げて、その治療を要求する状態のことを指します。いわゆる、不定愁訴がこれです。転換性障害は、歩けない、声が出ない、見えないなど身体疾患を示唆するような障害はあるものの、それを裏付けるような疾患が見当たらない状態を指し、解離性障害は、記憶、意識、同一性、環境などについて、普通ならば統合されている機能に障害が出ている状態を指します。特定の経験が思い出せない健忘、突然自分自身が思い出せなくなったり、過去が思い出せなくなったりしてしまう遁走、異なる人格が現れる同一性障害、現実感がなくなる離人症状などがそれです。

これらは、うつ病や精神分裂病、アルコール依存症などの部分的な症状としても現れることがあります。

このような不安障害の治療には、ほかの精神疾患と変わらず、薬物療法と心理療法の組み合わせが用いられます。具体的にはデパスなどの抗不安薬と、支持的な心理療法や認知・行動療法的アプローチを合わせます。なお、同じ認知療法でも、パニック障害のそれと、社会恐怖のそれでは内容が異なりますし、また精神分析、ユング派の心理療法が行われないわけではないですが、費用、時間の点を考えると、相当な重症例でないと行われません。

不安障害は今のところ、ベースとしてある性格に心理社会学的なストレスが加わると起きる、とされていますが、よくわからないところも多く、さまざまなことがいわれています。