心理学のお勉強

知覚心理学

視覚−形態・立体視


例えば、コップはなぜコップに見えるのか。このような当たり前の疑問を考えるのが、形態視や立体視の研究です。知覚分野では長いことこれをやっており、最近では脳での処理過程もターゲットになっています。

ですが。まず中身に入る前に押さえておいてほしいのですが、ことこの形態視や立体視は、どういうことが起きるのかわかっても、なぜ起こるのかはほとんどわかってないという、非常に謎めいた分野なのです

形というものは平面上、つまり2次元のものもあれば、立体、つまり3次元のものもあり、簡単に分類すると以下のようになります。

形の分類

とはいえ、実際は2次元のものが3次元に見えたりすることも珍しくありません。一つ一つ、現象を説明してみましょう。

2次元のものを考えるときは「図」と「地」という概念が大事です。まず、下の絵を見てください。

図と地

下の絵では白い部分の周りに黒い部分があります。このように一般に際立つ小さい領域のことを「図」、それを取り囲む領域のことを「地」と言います。

この図と地で教科書にたいてい載っているのが「図地反転図形」です。これは作るのがあまりにも大変なので載せられませんが、有名な「ルビンの横顔と杯」では、グラスに見えたかな、と思ったら、二人の人が向き合ってるように見えたりする、と非常に奇妙な現象が起きます。

さらに、この図と地に色をつけた場合は「リープマン効果」という現象が起きることが知られています。単純にいえば、図と地で色が違っても、その明るさに違いがあまりないと、図と地の区別が難しくなる、というものです。

リープマン効果

これにはなりやすい組み合わせとなりにくい組み合わせがあります。実際、今回の図のように青系と緑系では非常に起こりやすいです。また、地に色があって、図に色がない(あっても、灰色とか)場合、この図の色を青とか緑系にすると、リープマン効果は起こりやすくなります。

また、図と地の境をはっきり分けないように作ると、これもまたよくわからないものができます。下には何か潜んでいるんですが、わかりますか?

図と地の分化−1

これは地を少し広げれば、一発でわかります。

図と地の分化−2

英単語の「TILL」が潜んでいたわけですね。このように、図と地は分化する必要があることも指摘されています

形にはまだまだ特徴があります。ここで、ゲシュタルト心理学時代に登場した「群化」についてご紹介しましょう。

これはウェルトハイマーという学者によって提唱されたもので、物は近くにまとまっているとか、連続していたりすると、1つにまとまる傾向がある、というものです。

このようなものは簡潔性、あるいはプレグナンツの法則と呼ばれ、ゲシュタルト心理学のメインテーマとなっていました。

群化は具体的には、近寄っている「近接」、似かよったものがくっつく「類同」、つながっている「よい連続」、ほかにも、共通運命、客観的調整、閉合、そして、経験の要因によって起こるとされます。

例えば、このように文字が読めるのは「経験の要因」によって、単語なりなんなりが一塊を作ることで可能なわけです。この基本をぼこぼこにしてしまえば、読めません。

また、経験の要因はほかの要因と拮抗します。つまり、他の要因がある場合は、そちらのほうが強く働くのです。

実際に、経験の要因と近接の要因を拮抗させてみましょう。

経験の要因と近接の要因の拮抗

このように普段なら「知覚心理学」と「群化の要因」と読めるものが、「知群」とかのように近寄ったもので塊を作るのです。

また、こんなのもあります。

局所知覚と全体知覚

この図の1つ1つのパーツは「S」という単語で成り立っています。しかし、全体では「H」を構成しています。このような見方を「全体知覚」といいますが、これも非常に面白いことといえるでしょう。

立体視になるとさらにさまざまなことが起こりえますが、いかんせん図が書きにくいので3つだけ例をあげましょう。

まずは線画の立体視です。私たちがまんがとかを見て、そこから世界を作れるのはこの機能が大きく働いているわけですが、これには面白い点があります。とりあえず、下の図を見てください。

マッハの本

これは「マッハの本」という有名な図です。これの中心をよーく見ていてください。そのうち、本の開いている方向がひっくり返りませんか?

これは実際にも起こります。例えば、はがきみたいな紙を真ん中から半分に折って、それをテーブルかなんかに立て、片目をふさいだまま見てみましょう(このとき、席から立つといい)。ひっくり返ります。

このような図を遠近性反転図形といいます。ネッカーの立方体などさまざまなサンプルがありますが、立体視を考える上では非常に重要です。

また、この図を見てください(あんまりうまくないんだけど)。

不可能図形

3本の棒があるように見えますが、実際にこれを作ることはできません。わかると思いますが、真ん中はにょきっと生えちゃってるし、3本目もよく見ると不可能です。ですが、これも立体に見えてしまう。このような図を不可能図形といいます。

また人は物をどこから見ても同じ物に見ます。コップはどこから見てもコップなのです。これを視点独立の見方、といいますが、これをシルエットだけしか見せないとすると、的確に認識できなくなります。

有効な視点を的確に識別しなければ、うまく認識することができない、これを視点依存の見方といいます。

このようにいろいろ書いてきましたが、これらがどうやって起きるのかは、ほとんどわかっていません。まだまだこれからです。