心理学のお勉強

知覚心理学

時間知覚


「時間の知覚ってなんのこっちゃ?」とお思いの方も結構いらっしゃるでしょう。特に、それが心理学とどう関係しているんだ?と思われることは、想像に難くありません。

日常にはいろんな時間が存在します。もちろん、時計の時間もありますし、周期、つまり、「リズム rhythm」ってのもあります。

例えば、カレンダーには1日=24 hours、1年=365 daysというリズムが存在します。これも一つの時間です。

海が好きな人は潮汐のリズム(12.4 or 24.8 hours)というのを知っているでしょう。月の満ち欠けなんてのにもリズムがありますね(29.53 days)。「満月になるとなんとか」という話は昔からよく聞く話です。

体が気になる、という人は「体内時計」(「サーカディアンリズム circadian rhythm」)なんていうリズムを気にしているでしょうか。もっと専門的で、例えば、医療に携わる人なら、「そのサーカディアンリズムってのにはどうも視交叉上核が関係しているらしいよ」とか、「脳波には『アルファリズム alpha rhythm』ってのがあるんだよ」ってのを一度くらいは勉強しているかもしれません(ちなみに、アルファリズムとアルファ波は必ずしも同じものではありません)。

もちろん、このようなリズム、つまり、時間も人間に影響を与えます。例えば、風邪を引いて、熱が出たりなんかすると、一日がとても長く感じられるようになります。こいつはサーカディアンリズムの一種の狂いで、まあ、風邪なら治るからいいですけど、生活の乱れからとかで、昼夜が逆転するほどまでに狂ったりすると、睡眠障害が起きたりするものです。

でも、ここで考える「時間」というのはそういう時間ではありません。例えば、「あと2分で電車が来るな、急がなきゃ!」とか、待ち合わせで「おっそいぞ〜、あいつ〜」とか。こういう意味での「時間の知覚」これを考えていきます。

まず、心理学では時間の知覚を2種類に分けて考えています。一つは、数msec〜0.5msecくらいの比較的短い時間に関する知覚。これを狭義の意味での「時間知覚 time perception」といいます。そして、それより長い時間、つまり、1秒以上のものについてを「時間評価 time estimation」と呼びます。これら2つをひっくるめて、広義の意味での「時間知覚」となります。

2つを分けているのは、両者がそれぞれ関わるメカニズムが違うだろうから。なお、研究の際には一対比較法を用いて、「2つの時間を提示して、どっちが長い?」って聞くとか、カテゴリー評定法を用いて「今、どの段階にいるでしょう?」とやるとか、再生法で「さっきのと同じくらいの間、ボタンを押してください」とやるとか、言語的見積もり法で、「さあ、何秒経ったでしょう?と聞く」とか、やります。

狭義の「時間知覚」に関しては「時空相待 time-space interaction」というものが有名です。これは時間と空間の間には交互作用があって、時間が空間に影響を及ぼす「τ効果 tau-effect」、その逆、空間が時間に影響を及ぼす「κ効果 kappa-effect」がある、つまり、「相交代現象」があるというものです。70年くらい前の日本で発見されたお話ですね。他にも、時間知覚に関しては「速度の効果」とか、「空虚時程」「充実時程」といったものが言われています。

続いて、広義の時間知覚、つまり「時間評価」について触れてみましょう。

時間評価には2つの種類があります。一つは、過去にあった出来事において、どのくらい時間が経っていたか評価するという「追想的時間評価 retrospective time estimation」です。これは思い出を振り返る感じ。もう一つは、現在進行形の事態がどれだけ経ったか評価するという「予期的時間評価 perspective time estimation」です。以後、前者をRTE、後者をPTEと略してお話しましょう。

RTEは普通、客観的な時間評価、つまり、時計の進み具合と一対一に対応します。時計の時刻というのは社会的なものですので(そう思わない人もいるかもしれませんが、国、社会によって時刻って違うでしょ? 日付変更線なんてものもあるわけだし)、社会的な条件付けに由来する時間評価がこのRTEだ、といえるでしょう。

これに対してPTEは、必ずしも時計の進み具合とは一致しない、非常に感覚的なものです。

こういう説明だとよくわからないでしょうから、例を出しましょう。

例えば、きょうは2時に授業を受けて、5時からバイトに入って、10時に家に帰ってきた、と、きょう一日あったことを振り返っているときの時間評価はRTEです。思い出して、ああだった、こうだったと考えています。

これに対してPTEは、まさに今進んでいる時間について判断します。例えば、お湯を注いだカップラーメン、目の前で3分待つ、なんて状態がそれ。

RTEの場合、その評価の対象となっている時程中にいろいろなイベントが含まれているときのほうが、何の変哲もない、何もない時に比べて長く感じられます。つまり、前者だと「きょうはいろんなことがあったなあ」となり、後者だと「あれ、もうきょうも終わりか」となるわけです。これはいつ、どんな過去のことでも評価の対象となりえることから、記憶が関連していると考えられています。

これに対してPTEは、注意すれば注意するほど時間の流れが遅くなる「見ているやかんは沸かない a watched kettle never boils.」法則のようなものが成り立ちます。つまり、実際の時計の針の動きと、心の中の時計の進み具合が必ずしも一致しないのがPTE。さっきのカップラーメンで言ったら、目の前でじっと見つめていたら、その3分は相当長く感じるけど、本読むのに没頭しているときだったりなんかすると、そうでもない。そう、時間について特に興味を向けていなければ、時の流れはかなり速く感じられるのです。このように、PTEは時計の時間とは違う、本来の意味での「時の流れ」に関する評価がなされます。このPTEについては、他の認知活動との「タイムシェアリング time-sharing」によるのではないか、と考えられています。

さて、これら時間に関する知覚というのは、よくわからないことが多いです。例えば、時間をそもそもどうやって体験しているのか? それは一体どのように心的に表現されるのか? こんな問題、経験的には説明できるかもしれませんが、科学的に説明しろ、となると、これはかなり難しいです。

そしてそもそも、哲学でも、科学でも一致した見解が見出せない「時間とは何か? what time is it?」という時の定義そのものに関する問題が存在することも忘れてはいけません。

そんなわけで、時間に関する研究というのはまだまだこれから、という感じです。