心理学のお勉強

人格心理学

ライフサイクル


心理学的なライフサイクルを考えるとき、最初は多分ユングに行き着きます。しかしこのライフサイクルと似た言葉に、ライフスパンとか、ライフコースがあって、実のところよくつかめません。まずはこれら言葉の違いからはじめましょう。

「ライフスパン life span」は、生まれてから死ぬまでの時間的長さを示す言葉です。また、「ライフコース life course」は、人生の始まりから終わりまでを「あんなことがあった」「こんなことが」と経過や出来事で表す時に使う言葉。

さて、後でも出て来る人、レビンソンによるライフサイクルはこんな感じです。

1) 誕生から死亡までの過程…人間の一生は個人、文化、社会によって相当異なるが、根本では共通していて、その共通のパターンを生きる。
2) 人間の一生をいくつかの段階、時期に分けて捉える…人生は連続した不変的なものではなくて、時期によってそれは異なっている。それを分けて考えてみる。

大体どんなもんだか、わかっていただけでしょうか?

ライフサイクルそのものの考えは、そういう言葉は使わなくても、古くからありました。たとえば「ソロン(古代ギリシャの詩人で立法家)の10段階説」とか、孔子が「論語」に書き残した言葉などがそうでしょう。この2つを比較してみると、ギリシャ(西洋)と中国(東洋)で、人生観や人間観の違いが見て取れます。

しかし、心理学的に考えたのは先ほども述べたように、ユングが最初です。彼は人生を一日の太陽の運行になぞらえて理論を考えました。そして人生は4つの時期に分かれ、それは図のように表されます。

ユングのライフサイクル

ある時期から次の時期に行く間には「転換期」があり、それは危機の時期です。

最初の少年期はまだ自己を客観的には捉えることができないために問題は少ないとされます。また、最後の老人期も自己の意識状態に無頓着になっていくので、問題がないとしました。

つまり、大事なのは成人期と中年期ということになります。ユングはこの時期を人生の午前(前半)から午後(後半)への移行期として、特に中年期の転換期が人生最大の危機となるだろう、としました。

午前は自分が上昇し、拡大していく時期です。体は大きくなり、力も強くなり、世界も広がります。この時期は、個体として発展することと、世の中に定着すること、そして生殖、社会的達成にその意義があります。それが12時、つまりお昼になると下降しはじめる。以下、ユングの言葉。

「太陽は、予測しなかった正午の絶頂に達する。予測しなかったというのは、その一度限りの個人的存在にとって、その南中点を前もって知ることができないからである。正午12時に下降が始まる。しかも、この下降は午前すべての価値と理想の転倒である。太陽は、矛盾に陥る」

このとき、人間は自己を真剣に考えることになりす。午前と同じ生き方はできない。ここで大事になるのがユングの言葉で言えば「個性化」であり、そのためには生き方や価値観の転換しなければなりません。

このユングの理論を実証的に考えたのがレビンソンです。それが、以下の図。4、5年ごとに転換期が存在し、過渡期は「生活構造」という、ある人がどんなことに時間とエネルギを使うか、どんな世界を持ち、どんな人と関係を持つか、などその個人のその時期における基本的パターンや設計が、大きく関係してくるとされます。

レビンソンのライフサイクル

生活構造は時期とともに変化をせざるを得なくなります。たとえば、子供が育ち、大きくなっていくときと、独立したときでは確実に違うはずです。レビンソンによれば、7年以上持続しうる生活構造はないとされ、この構造を変える時期が、危機的な時期といえます。

また、レビンソンは男性の場合、40歳頃から「人生半ばの過渡期」に入るとしています。肉体的な衰えを感じ、仕事上の限界とかも認識して、また、子供との関係も、子供が青年期に入ることによって変わらざるを得ず、いわば、急激な変化が起こる。すると、どうしても今までの人生を振り替えざるを得ない。これがこの過渡期です。シーヒーによれば、女性は男性より幾分早く、35歳頃から始まるとしています。

このユング、レビンソンの考え方で大事なのは、人生後半に焦点が当てられていることです。それまでの発達心理学では青年期より前で考え方が止まっていました。それを一生涯に広げたのです。

エリクソンの発達段階理論もこれに当てはまるでしょう。これについては発達心理学のほうで触れます。

さて、実際的に、老人期の性格というのはどういうものなのでしょうか? 一般的には、内向的で抑うつ的、慎重、頑固などという言葉で表されることが多いですが、それがほんとかどうかは実は確かめられていません。

ビッグファイブのときよく使う「NEO人格特性目録」を作ったコスターとマックレーによれば、成人期から老年期にかけては、特性の変化はあまり見られず、内向性や抑うつ性が増加するともいえない、としています。

それより詳細なニューガーテンらによる研究(アメリカ、カンサスシティで7年かけて行った)では、中年期から老年期にかけては比較的安定した共通の4つの人格類型があるとし、1つが「統合型」、次が「装甲−防衛型」、「受身−依存型」、そして「非統合型」があるとしました。

統合型は人生満足度が高いタイプで、装甲−防衛型は仕事が好きでそれが喜びで、若さを保とうとするタイプ。若い者には負けない派です。人生満足度は高いけれど、年をとるにつれて葛藤が強くなっていくと思われます。

受身−依存型は他者に助けを求めるタイプで、無気力気味。満足度は中程度から低い傾向を示します。そして、非統合型はパーソナリティが解体するタイプで、人生に怒りや悲しみを覚え、自己像は否定的、満足度もかなり低いといえます。

この研究では人格には加齢によって変化しやすい部分としにくい部分があって、しにくい部分は狭義の性格です。たとえば、依存性とか攻撃性とかがそれ。逆にしやすい部分は他者認知とか自己認知などの認知的側面です。

たとえば、年をとるにつれて男らしさとか女らしさにとらわれなくなりますし、自分を振り返るようにもなります。それに世界は自分が動かさなければ、という考え方から、他者や人間を超えた存在が動かすと考えていくようになり、このあたりが認知的変化に関わっています。

また、年をとるにつれて、過去の自己像を肯定的にとることができるようになることが日本の研究によって明らかにされています。

ライフサイクルにとって大事なことは、失うものにしがみつかず、得るものは得て、そしてある時点に今いる、という点。人生が長くなった今の時代だからこそ、これから重要となってくることでしょう。