心理学のお勉強

人格心理学

人格と発達


人格と発達、というテーマは心理学の根本に流れるテーマでもあります。というのも、心理学では、生得的な、つまり生まれる前からそういう性質があるんだという説と、すべては生まれたあとの経験によるんだという説とが、はっきり言ってしまえば今でも論議されているからです。

この1つの流れの上で、遺伝学者ゴールトンは「家系研究」というものを行いました。これはたとえば、音楽をやっている人の子供は音楽をやっていたりと、発達の部分に遺伝を感じさせるようなものが見えるので、それを調べてみようというものです。

実際、音楽家であるバッハ一族の場合、多くは音楽家でした。もっとすごいのはアメリカのジューク家で、9代にわたって調べたところ、約4割の人が問題がある人々だったという結果が出ています(2820人中1096人が何らかの問題を抱えていた)。

このような結果は一見、遺伝力の強さを示しているように思えます。

しかし、実際にはこれだけでは環境の影響も十分に考えられる、つまり、周りに音楽やっている人がいるんだから、やったって当たり前、というのが捨てきれないので、双生児、すなわち双子間で比較して、どのくらい遺伝のパワーがあるのか、という「双生児研究」が行われるようになりました。

結果的には、二卵性より一卵性のほうがよく似ています。当たり前じゃんか、といわれればそれまでですが、ここのポイントは身体的性質、つまり身長とか、そういうものだけでなく、心理的な形質もいくらかは遺伝されているのではないか、といえることです

しかし、外向性や神経質といった性格的な部分はあまり似ることはなく、これは生後の生育環境を考えなければなりません。

ということで、ここからは生育環境と人格について考えていきましょう。

発達の初期、つまり生まれた時点から見られる行動的特徴のことを「気質」と呼びます。これは生得的な基礎のもと、ある期間持続し、似た環境なら一貫していますが、環境によっては変化したり安定したりするものです。

これをトマスとチェスという研究者は9つの次元に分類しました。そして、この次元を用いて「扱いやすい子供」と「扱いにくい子供」、それに「出だしが遅いタイプ」の3種類に子供を分類して、研究を行っています。

「扱いやすい子供」は生活は規則的で、機嫌もよく、環境にも適応的です。育児も楽で、母親も自信を持って育児にあたれるタイプです。40パーセントの子供はこれにあたります。

これに対して「扱いにくい子供」は機嫌や順応性が平均より低く、反応は高いです。そのため、些細なことですぐにくずって泣きやみません。親からすれば育てにくい子供です。全体の約10パーセントに見られます。

「出だしが遅いタイプ」は、環境に適応するのに時間がかかるので、活発さはあまりなく、反応にも弱いタイプです。約15パーセント程度。残りの35パーセントは平均的だったりして分類できないタイプです。

このうち「扱いにくい子供」の約70パーセントは、青年期までに何らかの精神医学的援助を必要とする、とトマスは述べています。たとえば、3歳児にコントロール欠如が見られると、大きくなったときに不安や引きこもりが見られやすく、集中困難やいじめを受けやすいということが述べられています(もちろん確実ではありません)。

ここで大事なのは、環境との相互作用の上に気質が成り立っているという点です。つまり、生得的特徴 x 環境要因 = 性格、なのです。

逆に言えば、出生時に何らかのリスクファクターがあっても、それはあとで取り返せるかもしれません。

未熟児などを追いかけた縦断研究によると、環境に問題がなければ、20ヶ月までに発達上の問題は見られなくなってきます。逆に、環境に問題があれば3分の2程度が心身の発達障害を生むとされ、それでも3分の1は普通に発達を遂げていきます。それどころか、よく働き、遊び、愛する「有能な若者」へと成長するというのです。

これには友達など、家族外からの支援などが大きな力を持っています。また、本人も「扱いやすい子供」であるということもあります。

つまり、一口に人格と発達といっても、年齢などの成熟的要因(子供のときに影響を受けやすい)や、世代・文化的要因(青年期に影響を受けやすい)、そして個人的要因(老年期になると影響を受けやすい)の3つが、大きくかかわっているのです。すべてが遺伝だけだったりとか、環境だけというのではないのです。

人格と発達、というこのアプローチは今は脳にまで及んでいます。たとえば、脳内の神経伝達物質(トランスポーター)とその受容体(レセプター)の間に、気質が現れることが述べられています。

これによると、ドーパミンは新奇性追求に、セロトニンは損害回避に、ノルエピネフリンは報酬依存に働いているとされます。このうち1996年に発表された研究によると、長いL遺伝子を持つ人より、短いS遺伝子を持つ人のほうが、つまり、セロトニントランスポーターの種類の違いによって、損害回避の傾向が強くなることが認められています(規定性は4パーセント)。

損害回避が強い、ということは、不安を受けたりしやすいということです。日本人の98パーセントはこのS遺伝子を持つため、ある意味では不安を受けやすい人種といえるかもしれません。

しかし、これはあくまで遺伝的な側面です。ここに環境の影響がなければ、それが現れないかもしれないことを忘れてはいけません。

さてここからは、対人関係というものを使ってフォーカスしてみましょう。ここでは親子の結びつきについて考えていきます。

親子の対人関係にはいろんな説があります。シアーズらの親子の結びつきは生得的なものではなくて、授乳などの世話によって2次的に学習されたものだという説、ハーロウが実験によって求めた、授乳などより親子の接触による安心感のほうが、母子関係の成立に重要であるとする説、カモなどが羽化してから約24時間以内に見た動き回るものを親と認識する、つまり、インプリンティング(刻印付け)がヒトにもあるのではないか、という考えもあります。

しかし、どれもこれも決定的とはいえません。

これらに対して新しい考えを打ち出したのがボウルビィです。これによると、「発達の初期に特定の他者(だいたいは母親)との間に情緒的絆を作ることが、後の発達に重要」であり、この情緒的絆のことをアタッチメント(愛着)と名づけます。これが有名な「愛着理論」です。

このアタッチメントは、エインズワースが考え出した「ストレンジ・シチュエーション」という実験的観察法によって確かめることができます。

具体的な方法は発達心理学などをやったときに譲るとして、ここでは人格という点と結び付けてみましょう。

この実験では、一般的な「安定型」や母親と一緒でも不安などを示す「アンビバレント型」、母親との再会などを無視する「拒否型」の3タイプが認められ、このうち、「アンビバレント型」と「拒否型」は、発達の質としてはあまりよくない、と考えられています。

しかし、その関係がその後の発達すべてを決めるわけではありません。先ほどから何回も言っているように、環境の影響も大きいのです。高校生、大学生への調査によると、友人との出会いやクラブ活動などによって、自分が変わったということも見られています

自分が変わるということはプラスにもマイナスにもなりえます。ただ、そういう経験があればあるほど、人とうまくやっていく社会性は発達するでしょう。たとえば、結婚して子供が生まれ、それを育てることによって、夫婦のアタッチメントが安定型に変化することも示されています。

また、過去の体験が修正されることも考えられます。

大事なのは、発達は一生涯にわたって続く、そういうものであるという点です。今だけ、それより前だけに着目していては全体は見渡せません。大きな視点で見ていくことが必要だと思います。