心理学のお勉強

心理測定法

心理測定と心理学研究


「心理学は行動を科学する学問である」と「心理学の基礎」編で説明しました。今回から取り上げる「心理測定」というテーマはまさにこれを一番反映している分野といえます。

心理測定とは、ある個人や集団で起こる心理現象をさまざまな手法を用いて調べることを指します。知能検査や性格検査といったものはそのひとつの具体的な形です。基本的には、心理現象を数値化することによって成り立ちます

心理現象という目に見えないものを数値化し扱うことには抵抗を持つ人もいるかもしれません。そのとおりデータはもともと数値ではないし、必ずしも数値である必要はないのです。でも、それには同時に限界も存在します。言った言葉からすべてを判断する、なんてことは、不可能ではないかもしれないけど、非常に難しい事なんです。

それに比べて数値というのは、(1)言語と比較してあいまいさがない、(2)意味がわかりやすい、(3)データの取得手続きが客観化しやすい、(4)再現性がある、(5)数学的手法を用いて予測や説明ができる、といった点で、利便性がよいのです。数値化することによって、ヒトという存在をわかりやすいものにすることができる、これは使わない手はない、というのが心理測定の背骨であり、柱です。

ここで、心理学における測定というのがいったいどういうものなのか、研究という点を踏まえて説明したいと思います。

まず、知覚・認知分野にしろ、発達・人格・臨床といった分野にしろ、心理学の研究法には大きく分けて「実験的方法」というのと、「調査観察的方法」というのの2つに分かれます。

実験的方法では、複数の実験条件の違いを人為的に発生させます。たとえば、比較実験なんかで、ある群には指示を与えておくけれど、別の群にも何も与えない、なんてのは典型的なそれです。このとき、その人はある集団(これを母集団と呼ぶ)の中から無作為に選ばれます。より専門的に言えば、母集団の成員1人1人のサンプリングされる確率は等しいということであり、これを単純無作為化法といいます。

難しくなっちゃったので、具体的に説明しましょう。たとえば、今ここに80人の人がいたとして、それを4つのグループに分けるとします。すると、1人1人の「どこかのグループに入る確率」は等しいわけですから、4分の1の確率でどこかに入ることになります。逆に言えば、80人は20人ずつ4つのグループを作る、ということもできるでしょう。このグループ分けをするとき、1人1人の選び方がでたらめならば、それが無作為抽出です。もしここに何かの条件を設けて、たとえば年齢で分けるとかしたら、それは無作為じゃありませんから、これとは異なる選び方をしているという意味になります。

この無作為化が大事な理由は、この操作をすることで、人為的な条件差をつけた時に、それに働く外部的な影響が弱められるために、結果的に研究の質が向上するという点です。この点については、「実験計画法」という名でひとつの学問領域になってますから、興味がある人は調べてみてください。

これに対して調査・観察的方法では、あるがままの状態でデータを取り、それを使います。人間を相手にする心理学では実験が困難な場合も少なくありません。特に、発達・人格分野なんかでは無作為化が非常に困難です。そういう場合は、調査データを活用して、そこから研究を進めます。

実験的方法は再認実験という形で記憶研究に使われたりして、どちらかといえば知覚、認知、思考といったものに使われています。これに対して調査・観察的方法はストレンジ・シチュエーションという形で発達研究だったり、調査という形でさまざまな研究に活用されています。

この研究を裏から支えるというか、メインで働いているのが、心理測定です。心理測定では、データを得て、それをある程度形にするところまでを扱いますから、データの分析という形で非常に強力なツールとなります。実際、実験的方法では分散分析が、調査・観察的方法では相関分析や因子分析などが使われています。

具体的な研究の例を1つ2つあげてみます。

まず、心理学実験としてよく行われるのが「錯視実験」です。これはミューラー・リヤーの錯視などに代表される錯覚を起こす図形を用いて、それがどのくらい起こるのか、実験的に調べることを目的としています。

ミューラー・リヤーの錯視を用いた実験で説明しましょう。この場合、市販の実験器具として「錯視図形」が用意されています(2, 3万円します)。これは板2枚が重なっていて、表に図形が、裏には長さの目盛りが書かれています。板の片方は固定されていて、もう片方が自由に動かせます。被験者は実験者の指示に従ってその図形を動かして見ます(調整法の場合)。そして、右の板と、左の板、それぞれの直線の長さが同じに見えたとき、そう言ってもらい、そのときの目盛りの値を測定します。

ミューラー・リヤーの錯視図形

こうしてデータを得ると1回ごとにかなりばらつきが出ます。そのために何十回、何百回と測ります。実験条件も変えたりします。そうして得た大量のデータを「目盛りの値」という数値として集め、それを合計し、そこから「分散」というものをとります。結果的にはそこから「標準偏差」も得て、グラフ化し、どの実験条件のとき、一番錯視が現れやすいのかを検討します。

これが代表的な実験的方法です。これに比べれば調査・観察的研究は、非常に小さなところから始まります

たとえば、女性のアイデンティティについて研究したいとします。そのためにまず、どの世代を研究するのか、そしてその人たちからどうやってデータを取るのか、それをじっくり検討します。また、その結果、質問をいくつかして、それに対する答えから研究を行うと決めた場合、この質問を作ることも行います。

質問は「多分こう聞けば、これが測れるだろう」というあいまいな意味付けでは使えません。これは後に「テストの信頼性と妥当性」というテーマで、非常に重要な意味をもってきます。ここでは難しい話はおいておきますが、とにかく質問項目の候補を100も200も作って、それを問題の種類別にグルーピングし、プレテストを行って、ある程度、質問の内容を整えたりします。この辺の具体的なことは、後の回で追々触れていきます。

こういう風に新たに質問を作るのではなく、今ある質問紙を活用して調査を行うとした場合は、その手間を省くことができます。ただそのときは、その質問紙が測りたいものをちゃんと測れるのかどうか、信頼性と妥当性は常に検討しなければなりません。

これら地道な作業が済んで、どうにかこうにかテストが出来たら、ようやく調査が実施できます。ただこのときも、「成人女性100人」といった区分ではあいまいすぎます。心理現象には年齢や環境などによって差が出ることもあるからです。それをなんとかするために、「20代、30代、40代、50代、それぞれの職業の内容によって分ける」といったことをよくします。

こうやって何とかサンプルを集めることも出来て、調査も実施できたとなると、その結果を持ち帰って、今度は分析を行うことになります。相関分析という2つの変数がどれくらい関係しているかを調べる分析を行ったり、因子分析という因果関係を見る分析にプロマックス回転とかバリマックス回転という操作を加えたり、共分散構造分析で相関構造を調べたりします(この辺、わからなくて当然なので、あまり気にしないでください)。こうやった結果から、研究結果を導き出します。

このように心理測定というのは心理学研究を行う上で、なくてはならないものということが出来ます。この「心理測定法」では、その理論から、応用にいたるまで、幅広く見ていこうと思います。

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