大学へ行こう

「心理学を勉強したい」そう思う人が最近増えてきました。
早い人だと中学生くらいから、遅い人だと大人になってから、
そう思って、心理学に取り組もうという人が増えています。
ということで、私なりに「心理学を学ぶための大学の歩き方」というのをご紹介したいと思います。


[決意]

 真剣な眼差しで「心理学を学ぼう!」と思っている人は結構多いと思います。特に、中学生、高校生の皆さん! みなさんはあと少しでくる「受験」という名の壁を意識しながら、心理学への想いを膨らましていることでしょう。

 皆さんがどのような経緯で、どのような思いで心理学とお付き合いしようと思っているのか、それは私にはわかりませんが、とりあえずいくつかこの「決意」の時点で気にしておきたいことがあります。

 まず、「心理学=臨床心理学とかカウンセリング」だと思っている方、しかも、それを仕事にでもしよう!と強く思っている方、そういう方は心理学を学ぶことをあきらめて、医学の道へと志したほうがよろしいかと思います。詳しい理由は「大学図鑑!2004」(オバタカズユキ他著/ダイヤモンド社)の22ページ、「心理学科を出ればココロのプロ?」というセクションを参照してほしいんですが、とりあえず「臨床心理士」なんて資格を取ったとしても、それで食べていける保証はまったくないのが、この心理臨床の世界。本気でその世界に生きたいという方は、医学をやるべきだと私は考えます。

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最新版は「2005」ですので、注意。

 簡単に言えば、心理学という学問はカウンセリングをやるための学問じゃないのです。もっと科学的に、人間の行動を見る学問なのです。カウンセリングというのは心理学の主流から見れば、おまけに近いのが現実。その現実を知らないで大学に入ると、かなりがっかりすること請け合いです。どれだけ受験をがんばっても、がっかりしては意味がありません。がっかりする前に、適切な道に進んでほしい。

 それでも心理学の道に進むという方は、現実的には「大学へ行く!」というのが当座の目標になります。


[受験]

 心理学を志す中高生からよく聞かれる2大質問に「心理学は理系?文系?」というのと、「受験のためには何を勉強すればいいの?」という2つがあります。

 原則的に言えば、心理学は文系に属します。例えば、東大(日本で最初に「心理学」の講義を始めたところ)で基礎的な心理学、つまり知覚とかそういう分野を学ぶとしたら、文学部に進まなければなりません。発達心理学とかは教育学部になるでしょうか。とにかく、このように、昔々から心理学というのは文系、つうか、文学部でやるものとされています。

 が、最近この状況が変わってきた。まず一つは、心理学が文学部から独立して、ちゃんとした一つの学部「心理学部」というのができるようになったところ。例えば、明治学院大学は2004年、文学部心理学科を「心理学部」へと移行します。こういう傾向は全国で見られます。

 もう一つは、これは心理学というのが人間に関係している分野であることと、心理臨床がブームになっている流れが影響していると思いますが、いわゆる「人文科学」とか「福祉系」の部門に心理学が見られるようになった点。こういうところは学部の名前がまちまちなので、本当にそこで心理学をやっているのかどうかよくわからないことがありますけど、たとえば、昭和女子大学の場合、心理学は「人間社会学部」っていうものの中に入ってます。このように「文学部」でも「心理学部」でもないところに心理学があったりするようになってきました。

 まあ、どちらにしろ文系という地位は変わらないのですが、昔のように「心理学といえば文学部だ!」のような流れでは今はないというところがポイントです。

 続いて、受験勉強はどうすりゃいいのか?という点。

 まず、必須は英語です。これは大学に入ってからも重要なツールとなります。英語ができないと、「文献購読」なんていう授業で苦労すること間違いなし。リーディングもライティングもできるようになっておきたいので、ちゃんと学んでおきましょう。

 続いて、数学です。「人間の心っちゅうもんをやるのに数学!?」と思うかもしれませんが、これはやっておいたほうが無難。心理学をやる人は「統計」というものと必ずお付き合いすることになるからです。その理論だなんだを理解するためには、微積くらいまでは最低でもマスターしておきたい(もちろん、行列、ベクトルといった知識もあればあるほどいいですが)。

 これはまあ、大学に入った後のことを考えると、という視点でのお話ですが、とりあえず「受験科目」をどうすんだ、という話の場合は、外国語はなんにせよ必須(配点も高い!)、国語もやっておけ、地理歴史、公民、数学、理科はどれか一つ強いのを用意しておけ、という感じになるでしょうか。

 でもでも、受験がまだ先の先の方の場合は、とりあえず学校生活を楽しみましょう! でもって、本読んだり友達と遊んだり、それはもう毎日を楽しんで、勉強もやって、いろいろ経験する。これが一番大事です。

 大学に入って心理学をやる上で一番重要となるのが「それまで身につけた教養」だと私は思うからです。

 さて、ここまでは現役受験生を対象としてお話をしてきましたが、大人の皆さんで「編入学したい」とか、「一からやり直したい」と思って、大学受験を考えている方も結構いるかと思います。今度はそういう方々をターゲットにお話をしましょう。

 まず、編入学。つまり、今他大学とか同じ大学の中でも他の学部学科にいるけれど、心理学をやりたいので受験したいという方。こういう方はまず、psycho lab.では「青本」という名でご紹介している「心理学を学びたい人のための大学・大学院の歩き方」(中央ゼミナール編/東京図書)を立ち読みでもいいから読みましょう。自分が本当に編入できるのか?(学年による制限とかがありますから)とか、どんな対策を練ればいいのかとか、それはそれは参考になるはずです。

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 編入のときに行われる入学試験というのは、現役生が受けるそれとはまったく異なります。心理学の専門知識をズバズバと聞いてきたり、これについてどう思うか?なんてのに答えなければいけなかったりと、心理学をやっている人間でも答えられるかどうか微妙なくらい、専門的にハイレベルな問題が出されたりします。

 加えて、この手の入試問題は結構入手が難しかったりします。とりあえず勉強の際は、「試験にでる心理学」シリーズ(北大路書房)なんかを参考にコツコツとやっていくことをオススメします。教科書としては「心理学」(東京大学出版会)とかがよろしいでしょう。

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 続いて、一からやり直したい!という方。

 まず、在職中なんだけど……という方は、通信制の大学で心理学が学べるところに通うというのはいかがでしょう? 教科書を自分で開いて、あれこれ頭使って、レポート書いたりなんだりとそれはもう、普通の大学生の何倍も大変(少なくても、遊んでても卒業できるなんてことは絶対に、ない)な大学生活にはなりますが、なにしろ、入学試験がありませんし、学費もかなりお安いのが普通(年額で10万円以下のところもある。普通の大学の10分の1くらいですね)。しかも、結構有名どころの大学もあります。慶応の通信教育課程とか、早稲田の人間科学部とか。これらは東京の大学ですが、全国どこに住んでても学べるのが通信の一つの特色ですね。

 ただ、この手の有名どころの大学は卒業までの道のりが尋常じゃありません。話だけ聞くと、とんでもないとこだなあ、と思うことしきり。そりゃそうです。通信制の課程を終えたとしても、「慶応卒」「早稲田卒」になるわけですからね。教える側もそれなりに来ます。その覚悟ができる方は、行ってみてもいいかも。

 普通に学びたいよ、という方は通信制の中でも放送大学が一番いいでしょう。なにしろテレビで実験映像とかが見られるというのは、ただでさえ実験実習が少ない通信制にとっては大きなメリット。また、大学で教えている人たちが、基本的に「その世界で名を知られる人」(まあ、だからか、放送大は権威主義的だとか言って、「第八の帝大」という人もいるけどね)、加えて、内容の改訂スピードがかなり速い=最新の内容を学べる可能性が高いということで、これらの点が評価できます(これらの理由から、psycho lab.ではlearn to psychology.を放送大学の教材を元として作成しています)。

 ただ、通信制そのものが抱える問題として、どうしても心理学の主体となる実験・実習・演習といった類のものが受けにくいこと、そもそも一人で勉強するのが当たり前なので孤独になりやすいこと(大学で友達を作るのもなかなか難しい)、卒論を書くとかも簡単にはなかなかできないことなんかが上げられますので、その辺は注意しておいてください。

 でもって、通信は嫌だ!普通に大学に行ってやる!という方。こちらの場合は、社会人としての経験がある方は「社会人入試」、経歴はないよ、という場合は、普通の人と同じように、受験勉強をして、大学の一般入試を受けて、それで入るという形になるでしょう。どっちにしろ、昼間に通う大学生としての生活ってのは、働いている人にとってはかなり大変。覚悟は必要です。周りの理解も欠かせません。

 ちなみに、いわゆる「二部」と呼ばれる夜間部ですが、これはだんだんなくなる傾向にあります。ご注意のほど。

 最後に。「どこの大学に行けばいいですか?」という質問をたまにされますが、それは不毛です。自分の目で見て、足で確認したところに行くべきだから。そんなこと、人に頼らないように。


[生活]

 なんだかんだいって試験を終え、大学に入ることになった。

 普通、話がここで終わってしまうことが多いですが、大事なのはここからです。大学で勉強するのが、入ったあなたの目的ですからね。

 というか、昔、文化人類学の先生(授業中よく水を飲む)とうだうだ話してたことなんですが、今の日本って、大学受験で一つ区切れちゃうのは問題じゃないのかなあ、と思うんですが、どうでしょう。ほんとは、大学入った後どういうことを学んで、どういう生活をするかってのが一番大事なんだから、入学より卒業を厳しくするべきだと思うんですけど…。東大受かったからって、入った後何もしなかったら意味がないんだからねえ(ちなみに、リアル東大生とお話をすると、自己紹介のとき「一応、東大に通ってます」と東大生は「一応」という言葉をつけることが多いですね。大学で私を評価するな!という意思表示なんでしょうか)。

 まあ、そういうことは置いておいて。

 さあ、とりあえず、大学に入ることになった。で、入学直前はめっちゃくちゃ大変になることが多いですね。特に、地方に住んでいて、これを機会に東京に出てくるなんて人は、東京周辺でアパート探しをしなくちゃいけなかったり、そうじゃなくても、教科書だなんだいろいろ準備しなくちゃいけなかったり(私の友達は「保健体育」の時間に履くシューズを探し回ってたなあ、よく)、大学で学ぶ前にまず、いろんなイベントが起きます。

 ちなみに、アパート探しなんかは大学生協が手伝ってくれたりします。「住まい探し相談会」なんて、大事にイベント開いちゃう大学まであります。不動産会社の人とか、大学の先輩とかが来て、こんなところがいいぞぉ〜、どうだぁ〜、なんてやるイベントです。まあ、不動産屋をぐるぐる回って部屋探すより、圧倒的にこういうのを利用したほうが楽でしょうね。仲介手数料も少し安くなったりするみたいです。

 加えて、入学の頃ってのは結構他にもいろいろあって、たとえば、健康診断受けなきゃいけないとか、科目登録しなくちゃねえとか、よりによっちゃいきなりオリエンテーションと称して合宿やっちゃったりするクラスがあったり(そういうところは昼間遊んだ後、夜コンパ)、サークル勧誘がやかましかったり(するところがある)、そりゃまあ、いろいろです。

 で、とりあえず、そういうごたごたも過ぎ、入学式も終わり、さあ、大学生活だ!

 大学生活はその大学が「セメスター制」か「通年制」かでちょっと変わってきます。セメスター制の場合は、大体2、3ヶ月のタームで1つの講義が完結します。通年制は普通の小、中、高校の授業と同じ。大学の場合は、一年を前期と後期に分けて、一つの講義を1年かけてやります。

 この違いは単位修得のときに思いっきり差となって現れます。通年制の場合、とにかく、一年がかりで単位を取りますから、根気が要ります。特に、自分のあまり興味がない授業を登録しちゃった場合なんかは、相当悲惨かも。

 セメスターの場合はそのようなものでも、数ヶ月の我慢と思えば耐えられるかもですが、こちらはこちらで、かなり詰まったスケジューリングで進行していくので、それなりにつらいところがあります。また、とにかく数ヶ月ごとに人間関係が入れ替わりますから、その辺意識しないと、かなり友達が作りにくいです。

 大学の講義は朝10時くらいから午後6時くらいまでがオンタイム。朝一の講義を取ると、普通は通勤ラッシュに巻き込まれます。これが意外とつらい。ラッシュに遭遇するのが嫌で、朝一を取らないと決めている人もいるらしいです。尺(時間)は90分が普通。100分、120分なんていう場合もあり。長いです。

 高校までは選択科目でもなければ、基本的には先生が勝手にやってきてくれて、授業してくれるものですが、大学はそうではありません。自分で取りたい科目を登録して、自分で教科書とか準備して(強制的に講師が指定する本を買わされたりすることもあるけど)、自分でその講義を受けに行くことが求められます。

 講師も懇切丁寧に教えてくれるとは限りません。かなりハードな内容をかなりタイトなスケジュールで教え込む、というスタンスを取る講師もいるし、ゆぅるりゆるりとやっていく人もいます。

 ここで勘違いしてはならないのは、大学の講師はあくまで「研究者」であって、「教育者」ではない点です。最高の研究者が最高の教育者である保証はまったくありません。受ける側もそれなりのレベルでなければ、ついていけないなんてこと、当たり前です。

 まあ、単位がもらえりゃいいや的学生だと、レポート提出直前とかテスト直前に友達からノートだのなんだの借りまくって何とかする人がいますが、それじゃあ、大学に行く意味なんかないわけで、少しは自分でも勉強しておきたいものです。

 今の大学は1、2年生から専門的な内容の授業が展開されます。「教養科目」という群があったとしても、東大みたいに最初の1、2年を教養課程、3年、4年を専門課程に分けて(しかも、大学側で専門を振り分けて(進学振り分け。別名、進フリ))やる、なんてことをしている大学はほとんどありません。まあ、早くから自分がやりたいことをやれるという点ではいいことですが、「大学で何をやるかなんて全然考えてなかった」なんていう受験生さんにとっては、結構大変かも。

 そういうことから言っても、受験勉強をしている時点から、大学に入ったら何をやるか、少しは考えておいたほうがよいです。大学に入ってから考えることもできなくはないですが、実現可能性は結構低くなるのが普通。転籍(学内の別の学部学科に移る)のためには試験を受ける必要があるし、合格率が低いので、希望が叶わないことも少なくない。やりたいことをやるために大学を辞める人もいる。仮面浪人(今大学にいるけれど、本当に行きたい所を来年受けるために受験勉強している人のこと)に入る人もいる。

 まあ、こういう大学に入るまで何にも考えてない人って結構多くて、受験勉強はめちゃくちゃがんばって、やるだけやって大学に入ったものの、そこから先がブラックアウト、穴の中に落ちちゃったのかと思うくらいにちゃらんぽらんになっちゃったり、逆に、手当たり次第にあれこれやって、模索する人を結構見かけます。それもそれで一つの生き方だと思いますけど、うーん、少しくらいは考えておいたほうがいいと思う(私自身がそうだったから。つらかったから)。

 さてさて、大学は朝から晩まで動いています。図書館が朝9時から夜10時くらいまで開いてたり、研究室なんかには仮眠設備(寝袋とか、簡易ベッドとか)が整ってたりするし(特に理系。ソファに転がって毛布かけて寝る院生が結構多い)、生協使えばどこにも出ないで何日かは学内で生活できるし、ところによっては、土日なんていう曜日が吹っ飛んでいる、そんな世界です。もちろん大学が「研究機関」だからなせる業です。

 このことは別の側面からも指摘できます。大学には夏季休講、平たく言えば、夏休みがそれなりに長い期間あります。大体7月半ば、8月頭くらいから9月頭、半ば、ことによっては終わりくらいまでですか。大体2ヶ月くらいです。この間、大学に行ってみましょう。もう人がわんさといるのが普通です。研究室に行くと、大学の先生がポコポコパソコン使って仕事していたりします。当たり前といえば当たり前なんですが、何しろ、年中休むことがないところだと、大学のことは認識しておいてください。

 ちなみに、セメスター制の大学の場合、試験は7月と1月になります。この周辺はレポートの提出期限が団子のようにつながってたりしますので、要注意。

 さて、ここまでは講義の話を中心としてきましたが、ここからはちょっと周辺的な話題をしてみましょうか。

 まずは部活、サークル、自治会の盛り上がり具合の話。これはもう、それぞれの大学によってまったく異なると思います。ていうか、学部ごとにキャンパスが(地理的に)分かれちゃっているような大学だと、それぞれのキャンパスごとに天地ほどの差が見られることが多いです。まあ、そういうところはえてして、あの講義を受けるときはあっちのキャンパスに、こっちの講義はあっちのキャンパスで、と大学生活そのものが結構面倒くさいことになるので、要注意。

 就職活動へのサポート具合も大学によって異なります。まったく関わらない大学もあれば、積極的に関わる大学もある。まあ、自分で動き回らないとどうしようもない、というところのほうが普通だと思っておいたほうがいいかもです。最近では3年生の頃から動き回る人も多いみたいですね。

 学園祭なんかも積極的にでっかい規模でやる大学もあれば、全然そうじゃないところもあります。まあ、こういうのの運営委員とか実行委員になると、生活がめっちゃくちゃになりますね。朝から晩までそれと面と向き合って関わることになります。高校までのそれとはもう世界が違う。まあ、高校の頃のそれとほとんど変わらないところももちろんあるけどさ…。とにかく、すごいイベントです。

 あと、オープンキャンパスなんていう、受験生向けのイベントが行われたりもしますね。受験生はこういう機会を逃さず行くべし。入ってから、自分が思ってたところと違う、なんてことになりかねないので、そうならないためにも、事前に見ておくべきです。ちなみに、オープンキャンパスじゃない日に行っても、とりあえず大学の中を歩くことくらいはできます。でも、図書館の中には入れなかったり、細かいところはフォローされないので、ちゃんと見たいって人は、オープンキャンパスを活用しましょう。

 まあ、ぱらぱらと大学生活というテーマで思いつく話を書いてみましたけど、まだまだ書きつくしてないと思うし、なんだか文章が発散気味なので、また何か思いついたら書き足したり、直したりしようと思います。


[ゼミ]

 大学生活もある程度たつと、ひとりの指導教員のもとに何人か集まってなんかやる、ゼミってのが始まります。

 今調べてみたら、このゼミって言葉の元「ゼミナール Seminar」ってドイツ語なんだって。いろんな学問の多くが、ドイツの方向から来たってことがよくわかりますね。ちなみに、これ、英語だと、同じスペルで「セミナー」です。それが短くなって、略称が「セミ」にならなくてよかった(ギャグですよ)。夏じゃないのに、「明日、セミがあるんだよねえ」とか、意味不明だもんね(まだ言うか)。代ゼミも、「代々木セミナー」じゃ、なんか締まんないし(なんだそれは)。

 ゼミってなんだ、って言われれば、みんなで一緒になって本読んだり、発表したり、感想言い合ったり、バトルしたり、実験やったり、そんな会だ、ということになるでしょうか(すごい大雑把な言い方)。ゼミの取り方は簡単。講義と同じように、自分の興味あるのを選ぶ。そして、そこに配属される感じです。

 正直、大学生活の中で一番、魅力的で、かつ鍛えられる時間が、このゼミにはある気がします。例えば、卒研と連動して、発表とかやるようになると、「まだこんな段階なの?」「詰め、甘くない?」「別の解釈は出来ないの?」などなど、そりゃあもう、突っ込まれること請け合いです。しかも、先生はもちろん、学生同士も交えて丁々発止やりあうわけだから、結構シリアス。ストレートに、「よくできました」ってきれいに褒められることって、あんまりない(私だけ?)。でもねえ、それがいい鍛錬になるんだなあ。

 言ってみれば、社会で生きていくうえで必要なもんが試される場ですね。例えば、決められた数分間の間に、自分が説明したいことを言い切って、周りからの質問にもおどおどしないで答えられるだけの力とか、そういうのが絶対的に必要となるのだ。

 みんなで本読むときとかだってそう。指導教員が「こんくらいは読んでおいたほうがいいだろ」ってものを引っ張り出して読むことが多いので、めっちゃくちゃ英語で、めっちゃくちゃ分厚い本を読まなくちゃいけない、なんてことが往々にして起こります。でもそれって、どんな分野であっても、職業者とか専門家なら最低限出来なきゃいけないことなのだ。受験のとき英語は大事だよ、って書いたのは、こういうところで必要だからです。

 最近、「ゆとり教育」で、学校で勉強する英単語の数がどんどん減っているらしいです。NHKでやってる「100語でスタート!英会話」なんて番組も当たっているようだし、なんか、数千語程度で英語っていいんじゃない?なんて思っている人が急速に増えている気がする。大学の先生は大変だって。みんな、ゼミとかでついて来れないから。

 そりゃ、お店で買い物するとか、そのくらいなら、別に数百語でもいいですよ。でも、ちょっと新聞読むとか、その程度の軽い英語に触れるのでも、実際には相当の英語力が必要です。ましてや、洋本とか論文みたいなもんを読もうとすると、相当な英語使いじゃないとダメ。だって、ちょっとした小説読むのに、TOEICスコアで800とか必要だったりするもんね。

 少なくても、ゼミで生き残ることを考えると、NHKの英会話講座で言えば、「ビジネス英会話」が理解できるくらいでないと、ダメです。

 ただまあ、私たち、ジャパニーズピープルに本当に必要なのは、英語を喋れることではなくて、書かれているものをちゃんと読みこなしたり、言われていることをちゃんと理解できる能力のほうですので、そういう「外国人としての英語実践力」を身についてればよいです。インターネットに転がってる英語が読めるようであれば、全然楽勝。普通に接する英語ってのは、これにちょっと専門用語とか、知識とかが必要になるくらいです。そうですね、受験英語がある程度できれば、私としては、大丈夫だと思う。

 ということで、ゼミは発表もそうだし、議論もそうだし、英語もそうだけど、実践的にかなり鍛えられる場です。

 ちなみに。ゼミのメンバーってのは、結構長いお付き合いになって、仲良くなることが多いです。合宿だの、ゼミ旅行だのといったことが行われたりすることも結構あるし、そうじゃなくても、一緒にいる時間が長い。この場の人間関係、すごい大事。

 ということで、講義をただ聞いてるのとは全然違うものがゼミにはありますので、参加して楽しむとよいと思います。


[研究]

 臨床とかそっちのほうはよくわからないのですが、少なくても、知覚とか認知とか、そっちのほうの心理学を専攻すると、ほぼ必修になる可能性が高いのが、卒業研究(略して、卒研)です。

 卒研では、大学4年の1年(といいつつ、正確には8ヶ月ちょい)をかけて、研究活動を行って、一本の論文を仕上げます。ちなみに、必修の場合、これを落とすと、講義だ、ゼミだでちゃんと単位が取れてても、留年決定になります。

 さて、ここで根本的問題。研究って、一体どういうものを言うんでしょう? 大辞林を引いてみても、「物事について深く考えたり調べたりして真理を明らかにすること。」とかあいまいだったんで、googleで「define:research」として探してみた。そしたら、こう出た。

 systematic investigation to establish facts(事実を新しく作り出すための体系化された検討法)

 そうなのです。大学でやる研究ってのは、まだ誰も気づいていない、知らないことをやって、そこからなんか新しい知識を作り出そうっていう、まあ、いわば、「トリビアの種」みたいなのが、研究なのです。

 既に本とかで示されているものは、それを検証しなおすなら、研究になりますが、それをただトレース(trace. 形跡をなぞる)するだけでは、研究にはなりません。人のネタをパクったりとか、そんなのももちろん研究にはならない。どんな研究でも、その人が独自に考えたなんかが入ってないと、研究とは言えないわけです。

 具体的な話に移しましょう。卒研は普通、ゼミと連携していますので、多くの場合、入ったゼミの指導教員が研究指導も担当することになります(実際の面倒は、ドクターコース(大学院後期博士課程)の院生が担当。指導教員は大事なときに登場)。形としては、研究室に配属されて、そこでやるということになりますね。

 卒論(卒業論文)の締め切りはだいたい12月から1月、2月の間。3年の後期から取り組んだとして、その期間は1年です。これ、長いように思えるかもしれないけど、全然そんなことない。逆に、短いくらい。そもそも研究には多くのステップがあります。それを乗り越えようと思うと、1年なんて、短い。

 ステップを順に追ってみましょう。

 まず第一に、課題の設定。つまり、取り上げる問題、研究テーマを決める。研究室への配属が決まった段階で、ある程度やる分野は絞られているでしょうから、そこから、自分に出来そうなものを考えることになります。

 大学生が出来る研究ってのは、お金もないし、すごいアイディアもそうは浮かばないし、あったところで、大体は出来ないしってことで、身分相応な、比較的こじんまりとしたものになるのが普通です。指導教員から与えられた課題に取り組むということも結構多い。どちらにしろ、あまりあれこれやろうとすると、うまくいかないことが多いので、注意です。

 課題が決まったら、その課題に関わる先行研究をとにかく調べなきゃいけない。旅行とかと同じですね。今度の休みは海外に行こう!って決めたら、とりあえず、ガイドブック買って来るでしょ? それで、ここ行こう!とか考えるでしょ? そのステップが研究にも必要なのです。

 この先行研究を調べる、関連する本を探す、っていう作業は結構大変です。とにかく、なんでもかんでも考慮に入れていたら、読まなきゃいけないものだらけになって、デスクが崩れてしまう。よって、必要なものをうまく見分ける能力が必要になります。なんていうんでしょう、googleで検索したらいっぱい見つかった、でも、これだ!ってサイトはちゃんと見つけられた、その時の能力が必要って感じ。見つけられないようでは、研究はやってられません。

 文献をある程度読んだら、今度は自分がやる研究の具体的な方法を決めて、準備に入らないといけません。実験であんなことやろうとか、こんな人を対象とした調査をやってみようとか、そういうのを考えないといけないわけですね。方法自体は、研究テーマが決まれば、大体見えるものだと思いますが、実践に移すためには、例えば、実験だったら、場所用意したりとか、いろいろ準備しないといけない。それって結構大変なことなのです。心理学の論文の多くは、大学生が対象となっていることが多いですが、実はそれって、この辺の事情と関係しています。つまり、大学生が一番身近で使いやすい被験者なんですね。そういうことも踏まえたうえで、準備とかしないといけない。

 ちなみに、これらの成果は、逐一ゼミを通して発表することが求められますので、本当にちゃんとやらないとまずいです。下手なところで躓いていると、突っ込まれます。

 それと、大学院に行こうと思っている方だと、8月は院入試の季節になるでしょうから、それより前には、この準備段階を終えてないとまずいですね。受験勉強とか、しづらくなります。

 さて、次のステップが実際の研究活動になります。この活動のリミットは、院入試が終わった後で考えて、遅くても10月。10月までにはやりたいことをやっておかないと、その後の論文書きにめちゃくちゃ影響します。

 ちょうどこの10月とか11月くらいには中間発表会が設けられていると思います。ここまでやりました〜、ってことを報告する会ですね。大体この時点で、ある程度結果が出せてないと、やばい。つまり、ここがひとつのリミットです。

 さて、論文書きです。レポートは大学生ならよく書くものだと思いますが、論文はその親玉なんてもんじゃなく、ちょっとこう、質の違うものです。

 なにしろ、論文書きには様々なルールがある。例えば、文体のルールってのがあるし(終わったことなんだから過去形で書け、なんていう基本的なことから、細かい記号の使い方まで様々)、それどころか、提出のときなんて、印刷の仕方とか、ファイルの閉じ方とか、そういうところにまで事細かなルールが存在します。

 そのため、論文書きはその研究室の院生や指導教員がめっちゃくちゃフォローします。フォローというのはいい言葉で、ストレートに言えば、めちゃくちゃ文句をつけます。最初のうちはサインペンで真っ赤になるほど指示が入るのを、だんだんなくしていくのが論文書きの実際です。忍耐強くがんばりましょう。

 論文は大体、原稿用紙にして100枚、つまり、4万字くらい求められます。それに、最初からページ構成を考えて書くように言われるのが普通。「第1章は序章で、第2章は本論、第3章は結論で、それぞれ30パーセントずつかなあ」とか、そのくらいアバウトなレベルから入って、めっちゃくちゃ細かい、「なんとかっていうセグメントで10枚」とか、そうやって決めて書く。それが楽なのです。

 何度も何度も書き直すうちに、赤が減ってきたら、ゴール目前です。論文には厳格な締切日(何月何日何時まで、みたいな)がありますので、そこに間に合うようにちゃんとやって、きれいに印刷して、ファイルして出す。これ結構重要で、ほんのちょっと遅れた(分単位ですな)だけで、1年留年になっちゃうかもしれないので、この辺しっかりやりましょう。

 論文出したら、口頭試問とか、発表会とかが待っております。でもま、論文が書きあがっていれば、大きな山は越えたと言ってよいので、そこら辺はうまく対処して、乗り切ればよし。

 卒研は大学生活の総決算ですので、それなりに大変ですが、やればいい経験になるので、出来る限りうまくやって、そして、いい卒業式を迎えられるように、努力しましょう。


[卒業]

 大学に4年いて、所定の単位を修得すれば、卒業です。でも、ここではその卒業ではなくて、「卒業」が関係する間の話をしましょう。

 卒業というのを意識するのは多分、大学3年の秋から冬にかけてではないでしょうか。なぜなら、この頃から「就職活動」が始まるから。そして、大学院に行こう!と決めた方にとっては、次の夏、秋(場合によってはそのまた次の冬)の入試に向けてそろそろいろいろ考えなきゃなあ、と思う頃だからです。加えて、卒論が必須の学科に進学している場合で、しっかりとしたものを書きたいなんて場合は、もうこのあたりから準備を始めないときついかもだから(学年が変わってからはあっという間。実質研究なんてできないに等しい)。

 卒業を意識し始めてから、実際に卒業になるまでの期間はほんとに、光の速さ(30万km/s)ほどの流れのように感じます。ああああ、と言っているうちに月日が流れて、知らぬ間に終わっちゃう。

 だから、意識し始めたらすぐにいろいろ行動をはじめなければなりません。

 まず、大学を卒業した後どうするかを考える。具体的には就職するか、進学するかを選択することが求められます。

 理系だとほとんどの人が進学するのですが、文系は必ずしもそうではなく、多くの場合、就職活動に突入することでしょう。

 ここで重要なのは、心理学を学んだ、ということが、就職活動においては何のプラスにもならないということ。つまり、心理学を大学で学んだからといって、心理系の仕事につくことなんてできないし、会社においても特別に評価してもらえるなんてことはまずほとんどないということです。一番最初、決意の段階で、カウンセリングとかを仕事にしたい人は医学に行け、といった理由はここにあります。

 実際、心理学専攻の学生のその多くは、専攻とはまったく関係ないところを就職先とすることがほとんどです。これ、重要なことなので、覚えておいてください。

 じゃあ、このまま勉強を続けたい、大学院に行きたい、と言い出す人も現れるでしょう。やるだけやってやらあ、という人ね。でも、それも難しいのが現実。

 そもそも、大学院は「研究するところ」です。学ぶところではありません。試験も「研究できる人」を選ぶために行われますし、大学院に入ってからの内容も、そういうものです。この詳しい話は「大学院に行こう!」ってののほうで書くつもりですが、きつく言ってしまえば、「お勉強目的の人はまず入れない」のが大学院だと思ってください。

 しかも、心理学は今空前の大ブームですので、倍率が非常に高い。臨床系なんて尋常じゃありません。最近話題の「法科大学院」の受験倍率が平均5.3倍(2003年8月:大学入試センター発表)、他の研究科(例えば、工学とかそういうのですね)が大体2〜5倍前後なのに対して、「臨床心理士指定大学院」は最低でも10倍、大人が受けやすい、しかも募集定員が大きい通信制である放送大学大学院に至っては25.6倍!(2004年度院入試結果より)もう「倍率爆発」状態なのです。

 もう、軽い気持ちで受験できるようなところじゃないんですよ、大学院ってところは。だから、卒業した後の将来のことを考えるときは、こういうこともぜひ考えておきましょう。

 さてさて、あっという間に大学4年に突入してしまうと、ごたごたと忙しくなります。ゼミでの演習、実習をやりつつ、将来に向けての活動をしながら、卒論のための研究をやるという状態になるからです。

 卒論の締め切りは大体12月の頭くらいです。4月から考えれば、約8ヶ月。大学生の立場では大規模の研究なんてできないものなので(所属ゼミの先生からテーマをもらって研究するとか、そっちのほうが普通かな)、それなりの研究で終わるのが普通ですが、実際、原稿用紙100枚強の論文を書くには微妙な期間であると思ったほうがよいです。できる限り早い時期から準備することに越したことはない。どうしようもなくぎりぎり締め切り3ヶ月くらい前から取り組むなんて場合は(えてしてあるのです)、相当の大事になると覚悟しましょう。

 卒論を提出しても、それで終わりではありません。年が明けて少しすると(具体的には1月の末くらい)、その論文に対する「口頭試問」というのが行われます。数十分間、先生とあれこれやることになります。まあ、それまでにアドバイスをもらいながら書いていくのが普通ですので、とんでもないことでもやらない限り、どうしようもないことを言われたりすることはないと思いますが、「てにをはを直せ」だの、「ここをこう変えろ」だの、いろいろ指示されて、「書き直し」を要求されることは少なくないものです。そうなったら、がんばって書き直そう(大体、大学が休みに入るまでの2週間くらい、時間をくれるでしょうから)。

 この口頭試問とか卒論発表会をやったら、大学生活もいよいよ終わり。冬休みが終われば、3月の終わりには卒業式がやってきます。


 ここまで原稿用紙約45枚(「秀丸エディタ」原稿用紙換算マクロによる)を使って、「大学絡みのあれこれ」をご紹介してきました。

 とりあえず大学生活は自分の目で、耳で、手で、足で楽しむことが求められます。

 将来悩みまくりの君も、受験勉強で大変の君も、大学入ってどうかなあと思ってる君も、また大学行こうかなと思っている大人のみんなも。

 自分の力で楽しんでいこうぜ!(なぜ、「ぜ」?)