心理学のお勉強

発達心理学

発達とは?


発達は英語でdevelopmentといいます。これには開発、といった意味もありますが、ここでいう「発達」というのは、「その人がそこにいたるまでの道筋」です。

今までの発達心理学は主として「子供から大人への変化」がメインなテーマとなっていました。そのため、幼児が母親に対して抱く愛着や、思春期におけるアイデンティティの獲得など、その専門以外の人にも大きく知られるような事柄が、たくさん言われてきました。

もともと発達心理学は児童心理学や青年心理学から分かれて大きくなってきた分野です。つまり、もともとがミクロスケールでものを見ていたわけですから、これはしょうがなかったのかもしれません。

しかし1950年代くらいから研究に実験的手法が導入され、個体の発達の理解より、特定の領域、たとえば知覚とか、認知とか、そういうような特定された発達を議論しはじめるようになってからは、流れが変わってきました。

特に1970年代に起こった「環境との相互作用」という見方の取り入れは、文化や時代といったものも発達に影響することを思い起こさせ、生涯を通じての変化、というものが考えられはじめてきます。

そして今の発達心理学は「生まれてから死ぬまで」を対象とした「生涯発達心理学」です。もちろんそこには今までの発達心理学も含まれています。

この大きなポイントは中年期や老年期といった、比較的今まで議論の対象となっていなかった時期を含めて、「人の一生の道筋」を研究するようになったことです。

そもそも発達という言葉にはよりよい状態へと適応していくという、前向きな変化の意味があります。それを今までは青年期で区切って、あとはないものと考えてきたわけでした。

たとえば具体的な話をすると、発達的視点(歴史的変化+よりよい状態へと向かう変化=それらを捉えるというもの)にもそれがいろいろと見えてきます。

有名なピアジェの「認知発達理論」……これについては後でも出てきますし、[児童心理学の第1回]でも登場しているので、詳しくはそちらを読んでいただければいいと思いますが……これは、順次に高いレベルの認知発達を遂げていくという、段階的で前向きな変化です。

社会的学習理論(自分の経験や、他者の経験を見聞きしたことを通じて学習し、それがパーソナリティや態度の変化として表れてくるというもので、社会のあり方が個体内部の心理過程に結びついているという考え方)や、乳幼児体験に注目する精神分析、愛着理論といったものもみな全然違うように見えますが、「現在に至る経過を重視して、これからの未来を考えた上で、過去・現在・未来をまとめる理論モデルを持つ」という点では共通しています。

しかし、中年期以降は必ずしもすべてが「前向きな変化」ではありません。どちらかといえば、いわゆる老化などのマイナス面も増えるわけです。

こういう変化を、衰退や老化といったマイナス面で捉えるのか、加齢現象として価値は置かないのか、はたまた、成熟という意味でプラスに捉えるのか、これが生涯発達というときの、かなり大きなキーとなります。

少なくても生涯発達心理学では、「人は一生発達する」ということがモットーとなっています。

ちなみに、生涯にわたって発達を研究しようとした場合、大きな課題があります。

たとえば、ある年齢的に散らばりがある集団に対して調査をしたとしても、それは、あくまで「その時点で見られる年齢差から、年齢的変化を推測する」という横断的な研究でしかありません。

そのためこれが、必ずしも正しい答えを導かないことがあります。より正確なデータを得るなら、1人1人を何年も追いかけて、必要なタイミングごとに調査していく必要があります。これを縦断的研究といいますが、これには非常に長い年月がかかります。

このように生涯にわたるを発達を見ていくのは、思っているほど単純ではありません。このシリーズではその発達心理学の一部を垣間見ていきます。

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