cafe de psyche

社会の心理学化(2003年12月)


私は毎日のように本屋さんに出没しては、いろいろと立ち読みをしています。毎日しているから読む本はだんだん少なくなるんですが(つうか、買えよ、っていう突っ込みは受け付けませんよ(^^;))、その中で最近立ち読みしてて、おっ、と思ったのが、「心理学化する社会」(斉藤環・著/PHP)という本でした。

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一言で言えば、最近、社会がトラウマだの、カウンセリングだの、なんだかんだと心理学化(特に臨床心理学化)しているけれど、それでいいのか!?と問題提起している本です。とても具体的に本だ、CDだ、ドラマだといろいろなもの例に上げながら、「心理学化している社会」をついてきます。ある意味では、心理臨床を考え直す(あくまで、問題提起なんだけどね)本ですから、この本は臨床心理学をやっている方には敵かもしれません(^^;) とはいえ、著者の斉藤環さん自身が「精神科医」なわけで、ちょっと違う世界とはいえ、「こころ」(なぜかひらがな表記)を扱っている人なわけですから、発言は聞いておくべきでしょう。

私個人としては、「よく言ってくれた!あっぱれ!」という感じです。基本的には人に本を薦めない人なのですが、心理学をやっている人、特に、臨床系の人にとってのpsycho lab.的必読図書に指定します(ちなみに、他に指定したのものとして「フロイト先生のウソ」(Rolf Degen・著/文春文庫)があります)。そのくらい、心理学関係の人にとっては読む価値があると思います。

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今の心理学ブームというのは、言ってみれば、作り出された幻想に近いものがあります。しかもそこにある心理学というのは、ヴント由来の実験実証的なほうではなくて、フロイトとかユングとかロジャースとかの臨床的なほう。

まあ、別に臨床は臨床でやってくれてもいいんだけど、ここまで社会一般に広がり始めちゃうとちょっとどうかなあ、と思っちゃうところがあるんですよね。

私自身、psycho lab.のコラムの中で、「弱いだけでいいんかい?」とか、そういうことは書いてきた。社会的な流れを考えてみても、この「心理学化」というのはよく見て取れると思います。

ネットがこうして定着した、その理由の裏にもこういう「社会の心理学化」があるような気がうっすらするし、そうじゃなくても、売ってる本とかCDとかを見れば明らかにこれはわかる。

ちょっと前にfunny books!(今はないコーナーですが)で取り上げた西尾維新さんなんてのもそっち系だと思うし(書いてる本人にとっては全然そう思わなかったりすることが多いけれど(^^;))、浜崎あゆみとか、鬼束ちひろとか、椎名林檎とかのリリックの世界観なんて、どう見てもそっち系ですよね(一応言っておきますが、私はこういう世界観が嫌いではありません)。

高校生の「興味のある職業」がカウンセラーだったり、心理学系の大学・大学院には受験してもなかなか受からない現実とかあるし、もう、この十年くらいで、一気に「心理学化」ってのが進んだと私は思います。

で、今までも言ってきたけど、そこで少し立ち止まって考えてみたい。

これらが悪いとは一言も言いません。私もそういう流れの中で生きているわけだし、本も読むし、CDも聴くし、そういうのが嫌いなわけじゃなくて、好きだし、だから、悪いなんて一言も言おうとは思わないんだけれど、でも、少し立ち止まりたい。

立ち止まってどうなるかは、それは全然わからないんだけど、でも、少なくても、今までの自分を振り返ることができるだろうし、周りを見通すことができるようになるでしょう。そこで、それぞれ個人個人がいろいろ見解を出してみるべきなのではないか、と私は思います。

個人的には心理学ブームは終息するべきだと思っています。カウンセラーみたいな職業が人気を集める、それ自体がちょっと変だと思うし、そのこと自体が、心理臨床の活動をやりにくくしている面があると私は思う。少なくても、精神医学をやっている人にしてみれば、「確かになんでもかんでも薬はまずいけど、話ばっかも問題だろ!?薬と共に話じゃなくて、薬よりも話なのかよ!?両方あわせて一つなのによ!」でしょう。

ていうか、いろんな領域(知覚だ、認知だ、その他たくさん)をひっくるめて成り立っている「心理学」全体としても、今のブームはポジティブには働いていないと思う(大学としては受験生が集まるからいいかもしれないけれどね(シビアな見方))。

そもそも「臨床心理士」とか「カウンセラー」なんてもんになんでそんなに飛びつくんでしょう? 私は「臨床心理士」の必要性をあまり感じません。なんかうまい具合にみんな、流れに乗せられていないですか? ほんとにそんなにみんなカウンセリングしたいですか? カウンセリング受けたいですか?

ていうか、そんなに自分を知りたかったりします? みんな病気になりたいのかな、なんて風にすら私には思えちゃいます。

私にはわかんないなあ、そこが。みんな何のためにそこまで「心理」をやるんでしょう。

私はもともと「生物学」とか、そっちの世界にいた人です。で、「人間というものを全体的に理解したい」と思ったので、心理学をやりました。で、今、心理学に片方足を突っ込みながら、もう片方の足であちこちの学問を探っています。文化人類学とか、社会学とか、メディア論もやったし、情報学とかも私の範疇です。ほんと、あれこれやってる(ちなみに、昔の学者を調べると、結構私みたいな人は多いみたいです。文化人類学なんて分野は、特に)。まだ、これって言う学問はなくて、ていうか、そんな「超域的」で「学際的」な学問なんかあるわけがなくて、これからどうしようかなあ、なんて思っている段階です。

私の場合はだから、とりあえず「心理学『も』やってみました」というわけなんですが、皆さんの場合はどうなんでしょう。

とりとめもない話だけど、とりあえず、さっきの本で「心理学ブーム」ってのがなんなのか、今一度、考えてみたいと思います。

ていうか、みなさんも考えてみてください。