cafe de psyche

それいけ×ココロジー(2003年6月)


私がまだ10歳くらいの頃、つまり、1990年代の初め、とんでもないテレビ番組がありました。

当時、私は所ジョージさんの大ファンで、小学生のくせに毎週土曜日は午後10時まで夜なべして見ていた、そんな番組。

そう、それが日本テレビ系列で放送され、大ブレイクした心理ゲーム番組「それいけ×ココロジー」です(覚えている人、いるかな?)

私は個人的に、現在の心理学ブームの火付け役はこの番組ではないか、と思っています。そして、誤った心理学を広めてしまった代表選手じゃないかと思っています…

当時は時代的に「指数」ブームでした。もちろん、大元は「知能指数 I.Q.」です。で、どのくらいブームだったかというと、その頃大人気だったクイズ番組「マジカル頭脳パワー!!」(これまた日テレ系)が問題に「頭脳指数」という名の値を振って、それを得点にしてたくらい。その後も、「EQ」だとか「SQ」といったものも話題になったことは記憶に新しいです。

こんな時代背景のときに、この心理ゲーム番組は作られました。そのきっかけには、「おしゃべり用心理ゲーム」(パギラハウス・編/TBSブリタニカ)という本が大きな影響を与えたようです。ということは、この本が今、世の中に出回っている数多くの心理ゲームの親玉である、といえるかもしれません。

「川に一艘の船が浮いています。それが左から右へと流れていきます。さて、その船には何人の人が乗っていますか?
A : 3人、B : 5人、C : たくさん乗っている」

こんなものから、「あなたを信用している人の人数」なんていったりする、あの心理ゲームの親玉です。

ただ、この本と違って「ココロジー」が新しかったところは、単純にゲームで終わらせるのではなくて、そこにいい加減ながらも精神分析的な、分析心理学的な解釈を与えていたことにありました。例えばさっきの問題で言えば、「船というのは、心理学者ユングによれば〜」のような説明を加えて、いかにも「らしく」見せていたのです。

実はこれが誤った心理学を広めた理由の1つなんじゃないか、と私は思っています。なにしろ、心理学は、どの理論を取ったとしても、人の心など読めないというのが学者間の常識です。しかし、この番組ではそこがエンタテインメントとして扱われてしまったために、マス・メディアという強力なパワーによって、学問に対する歪んだ認識が広まったような気がするのです。

「ココロジー」は大人気番組となり、当たり前のごとく、心理ゲームブームが訪れました。そしてその余波はラジオ、新聞、雑誌など、ほかのメディアにも飛び火し、街中のあらゆる所で心理ゲームを見かけるようになります。

当の番組自体は1年くらいで終了したのですが、その終了後もゲームブックが刊行されたり、心理ゲームビデオが発売されたり、それはもう大変な状態でした(ちなみに、ゲームブックは今でも本屋さんで買える)。

そして、この心理ゲームブームが、今の心理学ブームへと転化して、今に至っているのではないでしょうか。

なにしろ、昨年(2002年)の「高校生に一番興味をもたれている職業」という調査を見ると、その第1位がなんと「心理学者」なのですが、ところで、この興味は、ちゃんと、知覚とか学習とかそういうものを踏まえた心理学なのでしょうか? 多分、そうじゃないですよね。個人的には絶対に違うと思うし、心理学者もそう思っています。うーん、やはり、「ココロジー」からの心理学なのですよ〜。

ただ、では、「ココロジー」はダメダメなのか?というと必ずしもそうではないところもあります。

確かに、エンタテインメントとしてはやりすぎでしたが(実際、作家さんがこの出演者さんならこう書いてくれるだろう、と予測して問題を作っていたらしい)、「心理学のエッセンス」を一般社会に対して提供していた、という点は、心理学にとって大きな功績といえるかもしれません。

例えば、「私は…」で始まる文章をとにかく書け、という「20答法」や「ジョハリの窓」、「エゴグラム」といったものをパブリックに紹介にしてたのです。また、ドメスティック・バイオレンス(domestic violence. 家庭内暴力の意)、アイデンティティ、性の考え方など、今、問題となっていることにも積極的に触れていました。

そういう意味で、時代を先取りして、日本の心理学というものを世間に対して大きく開いた、という点は評価しなければならないでしょう。

さて、「ココロジー」なんですが、毎週エンディングは「夢判断」で閉められていました。ゲストで来た人が自分の見た夢を語って、それを予想通り「フロイトがどーの」「ユングがどーの」とあれこれ言って、解釈するのです。

はっきり言って、今考えると、そんなマニュアル的に夢判断なんかできないのですが、でも私、そのときに登場していた、夢判断のときに見る辞典、「夢辞典」ってのがとっても欲しかったのを覚えております。

多分、実体としての「辞典」が欲しかっただけだと思うんですけど、でも、今考えると、あの頃からそういうことに興味があったのか、そして、今、心理学というフィールドにいて、いや、なんか不思議なものを感じますね〜。あの頃から私の根本、変わってないのかな…(^^;)

結局また、何を書いているんだかわからないですが、とりあえず、「ココロジー」という番組があったということを、心理学を学ぶ身としては覚えていたいな、と思います。