cafe de psyche

Let's affordance!(2003年3月)


人間の行動を科学するのが心理学なわけですが、ジェスチャーにはどんな意味があるんだとか、そういうまさに人間の行動を科学し始めたのは、結構最近のことです。それまではもっぱら他の動物を材料にすることが多かったわけですね。学習心理学なんかはその代表です。

さて、こういう中で出てきた一つの考え方の中に「アフォーダンス affordance」というものがあります。

簡単に言ってしまえば、環境が人に何かをもたらす、お誘いする感じ(invitational)のことで、たとえば「かなづち」は持つところが握りたくなる形をしているし、「椅子」はその形が座ることを呼びかけている。こんな風に環境が人に呼びかけていることをアフォーダンスと言っています。

アフォーダンスはもともと造語(affordを無理やり名詞にした形)なので辞書に載ってませんし、日本語にしにくい概念なのでまだまだこれからな言葉ですが、でも、だんだん根付いてきたかな?

03年1月の「web creators」(ウェブデザイナー向けの月刊誌)に「やかんは何故あんな形なのか?」という話があったけど、あそこにもアフォーダンスが出てきていたし。

まあ、これからの心理学、特に生活に密着した心理学を考えるときにはなくてはならない考え方です。

アフォーダンス的に言えば、たとえば、子供は「穴」に誘い込まれやすいことがわかっています。これは日常生活でよく見るでしょう。覗き込んでみたり、ちょっと突っ込んでみたり、広げたり、いろんなことをよくしてますね。

こういうことは今までの心理学的な理論ではなかなか説明できないわけですが(少なくても、そういう行動を何らかの形で学習したか、生得的に知っているかのどちらかでしかいえない)、アフォーダンスを頼りにすれば、ある程度説明できます。

この時の重要な考え方が、人が何かアクションをするだけじゃなくて、周りが呼びかけている、それを気にしよう、ということです。

子供のときはこのように「もの」が呼びかけることが多いわけですが、大きくなるにつれて「人」が呼ぶことが多くなります。Aさんが土台を作ると、Bさんがそれをもとに何か作る、で、またそれを見て…のような、いわゆるコラボレーション。自分からアクションを起こすこともありますが、「なんだか見てたら…」のようなアフォーダンスもあるわけです。

ジェスチャーなんかまさにそうですね。ボディ・ランゲージで外国の人に説明したいことが通じるとか、そういうのはアフォーダンス的な理解がないとできないです。

ちなみにこのような「身振り手振り」から相手の意図を汲み取るとき働く神経細胞(ニューロン)というのが実はわかっています。「ミラーニューロン mirror neuron」と呼ばれていますが、その名の通り、他人の動作を頭の中でトレースして、まるで鏡のような働きをしているらしい。場所的には運動性言語野、つまり前頭葉のブローカー領域にあるようで、10年位前に見つかりました(全然教科書とかでは見ないけど(^^;))。

もしかしたら、模倣学習とかモデリングが有効なのも、このミラーニューロンが絡んでいるのかもしれませんね。

さてと、話が適当にずれたところで(^^;)、アフォーダンスに戻すと、このような考え方(「ギブソンの生態心理学」的な考え方といってもいいけど)は実はまだまだ心理学の中では新しいというか、超がつくほど新しいっていえるかもしれないものです。

知覚と行為は切り離せないというこの視点。

このことを考えないで作られちゃったものって結構世の中にありますが、そういうのを見直すいいきっかけにもなると思うから、ちょっと街中をアフォーダンスな目で見てみましょうよ。結構、面白いです。暇つぶしにぴったり。

ということで、この春は「アフォーダンスで行こう!」とおすすめしておきます。