心理学のお勉強

臨床心理学

うつ病(気分障害) Mood disorder.


「うつ病」という言葉はかなり知られています。「心が風邪を引いたんだ」なんていう、オブラートに包んだ表現も、結構使われるかもしれません。でも、その実態をちゃんと理解できているでしょうか。今回はそこら辺を見ていこうと思います。

まず、うつ(鬱)とは、気分が落ち込んでいることをいいます。逆に、気分が爽快なときのことを、そう(躁)といいます。このどちらも日常生活で見られることなんですが、その質と量が健康な人と異なるとき、それを「気分(or 感情)障害」といって、治療の対象とします。

「気分障害」は大きく言えば、うつ病と躁病ということになるわけですが、実際にはかなり細かく分類されます。

まず最初はうつ病についてです。これはそのレベルによって「大うつ病性障害(または、大うつ病エピソード)」から「軽症うつ病」「気分変調性障害」までいろいろあり、病気の内容は千差万別、患者によって異なる、というのが正確なところです。

そもそもうつ病にはなりやすい人というのがいます。執着性格と呼ばれる几帳面さ、強い責任感、凝り性、仕事熱心、徹底的で融通が聞かない性格を持つ人はその典型的な例です。その上で、二者択一な考え方、たとえば、「成功か失敗か」とか「零点か百点か」という判断をする人は、さらになりやすくなるといわれています。

きっかけは、何かのストレス、たとえば、学生なら卒業して新しい学校に入ったとか、試験に失敗した、社会人なら、仕事で大きなミスをしたとか、逆に昇進したとかで起きることがあります。もちろん、明確にはそれがわからないときもありますが、そうやって「うつ」な状態が始まると、気分、思考、そして身体にさまざま症状が現れます。

うつ病の3大症状は、「抑うつ気分、精神運動制止、不安焦燥感」です。これに「自律神経症状」を加えて、4大症状なときもあります。具体例をあげて説明しましょう。

抑うつ気分とは、簡単に言えば気分が落ち込むことで、涙もろくなったり、異様に自信がなかったり、後悔ばかりすることなどを指します。これが重くなると、思考力が衰え、なかなか仕事に取り掛かれなくなったり、時間ばっかりかかってしょうがなかったり、注意が散漫になるなどの精神運動制止が起こるようになります。ひどい場合、ラーメンとチャーハン、どっちを食べるか?なんていう、簡単な判断さえできなくなります

不安焦燥感は、落ち着かなかったり、いらいらしたり、ということです。重症になると、じっと座ったり、横になることも出来なくなります。部屋中をうろうろ歩き回ったり、髪の毛をかきむしったりして、それが見て取れます。

「うつ」が身体に現れると、自律神経症状となります。これはもう、なんでも起きる可能性があります。不眠、早朝覚醒(早く起きて、その後寝られないこと)、食欲不振、耳鳴り、声のかすれ、のどの痛み、息苦しさ、便秘、関節痛、微熱などなど、ほんと、何が出てきても不思議ではありません。

そのため、これが「心の病気である」ということになかなか気づきません。そう思ったとしても、身体のほうばかり目立ってしまって、心にまで気が回らなかったりします。不定愁訴、つまり、あっちがだめなときもあれば、こっちがだめなときもある、なんていう状態ならなおさらです。内科とかに行っても異常なしで、結果、いろんな病院を渡り歩いて、さらに気づくのが遅くなったりします。

ひどい場合、「本当はガンなのに、みんな黙ってるんだ」とかいう、妄想まで見られます。

このようにうつ病は重くなると、いろいろな症状が見られるようになりますが、それと同時に自殺の危険性も高まっていきます。リストカットという手首を切る行為や、風邪薬の大量服用なんていう、実際の行為もよくあることですが、それだけではなく、自己抹殺な夢をしばしば見たり、なぜかロープやカッターを買ったり、自殺をほのめかしたりする(自分の大切なものをやたら人にあげる、捨てるなどもその例)ようになったら、事態はかなり切羽詰まってきています。こういうとき、周囲から適切な援助が得られないと、本当にそのまま突っ走ってしまうことすらあります。

では、ここまでを、DSM-4の「大うつ病エピソード」の基準として、まとめてみましょう。

以下の症状のうち、5つ以上が少なくても2週間以上持続し、うち1つは抑うつ気分、または興味や喜びの消失である

これらの状態が2週間以内の場合は「気分変調性障害」と呼びます。また、抑うつ気分に加えて、食欲障害、集中力の低下、絶望感、無価値観、気力の減退、睡眠障害のうち、いずれか2つが2年以上続いているときを「気分変調症」と呼びます。

うつ状態が季節によって変動することも見られ、その場合は「季節性気分障害」といいます。一番多いのは、冬はうつでしょうがないんだけど、夏は元に戻っている、というパターンで、その場合、冬に夏っぽい体験(たとえば、日の当たるところに出かける)をすると、劇的に改善します。症状も食欲不振が食欲亢進に、不眠が過眠に、というように反転し、気分もかなりよくなりますが、また冬な感じに戻ると落ち込みます。

このようなうつ病は、20代に発症することが最も多く、女性の10〜25パーセント(つまり、4人に1人!)、男性の5〜12パーセント(つまり、10人に1人)に見られます。最近では中高年以降のうつ病がかなり問題で、自殺率が一番高いのも、実は中年期だったりします。

うつとはまったく正反対の状態が、そうです。ですから、うつの症状をひっくり返せば、そっくりそのまま、そうの症状ということができます

気分は良く、陽気で、生き生きとしています。それは周りにも伝わるほどです。気分はいいですから、興味もいろいろと湧きます。ただ、それを他人に妨げられると、すぐに怒ったりして、感情は不安定です。

アイディアがどんどん浮かんできて、さまざまな行動をします。でも、そのだいたいが失敗で、意味もないものをやたら買ったり、夜中に友達に電話をかけて、長電話したりします。口数は多く、いろいろな話をするのですが、まとまりがありません。無分別な態度だったり、さまざまな行動をとるので、周囲と軋轢を生むこともしばしばです。

本人は寝なくても疲れを知りません。食事をとらなくても大丈夫です。時には「自分はすごいんだ」という誇大妄想も見られます。

こういうそうだけの状態があることをそう病、そう状態と、うつ状態が繰り返して見られることを双極性気分障害(または、そううつ病)といいます。そう病というのはかなり珍しく、そうが現れる多くの場合は、双極性気分障害です。

この双極性気分障害は、成人の0.4〜1.2パーセント程度(気分循環症で0.4〜3.5パーセント)に見られ、また男女間に差異はありません。また、その病気のレベルに応じて、入院が必要なほどにそうが強い双極1型、それほどではない双極2型、1年に4回以上、こういう状態を行き来し、慢性化している急速交代型、そうもうつも軽い状態である気分循環症にそれぞれ分けられます。

うつ病、双極性気分障害ともに、薬物療法と心理療法の対象となります。多くの場合は外来治療で済み、リチウムやテグレトールなどの気分安定薬を服用しながら、認知・行動療法的アプローチをします(というより、もともと認知療法はうつ病治療目的に生まれてきたものですから、あたりまえですが)。適切に治療すれば、85パーセントの人は治るといわれています(WHO調べ)。

薬は効くまでに1週間から10日ほどかかります。この間に効かないからといって服薬を止めたり、医師の指示に従わなかったりすると、結局は治るのが遅くなります。また、服薬を止めるときは、段階的にその量を減らしていくなど、処置が必要です。ですから、必ず医師の指示に従うよう指導します。なお、自殺の危険性が高かったり、重症度が高くて薬物による効果を待てない場合は、麻酔下で電気ショック療法を行うこともあります。

病気としての気分障害は、一進一退はあっても、いつかは元に戻ります。問題はそれが気づかれずに放置されたり、周囲がそのことで偏見や差別してしまうことです。決してそのようなことがない、社会をこれから作り上げていかなければならないと思います。