心理学のお勉強

臨床心理学

心理臨床とは?


臨床心理学はほかの心理学とはかなり異なる側面を持っています。また、ほかの心理学分野がかなり古くから存在しているのに対し、臨床心理学は19世紀になって登場したということで、かなり遅めの分野といえます。

臨床心理学は、精神病理学や社会学などが源流となって生まれました。その学問的な定義は「心の問題を持つ人に対して『広い意味での』心理学的な知識や技法を用いて援助し、またそのための理論や技法を研究する学問」となっています。

この『広い意味での』というのには、心理相談や心理療法のみでなく、ほかの職種(医師、福祉士、保健職、教職員など)による援助が受けられるようにするリエゾンという考えを含んでいたり、ベースに人格理論、発達理論、社会・対人関係理論、学習理論などの心理学分野だけでなく、宗教学、哲学、精神医学などがあるからです。

臨床心理学が生まれたのは1896年、アメリカ心理学会大会でウィトマーが提唱した時だとされています。これには「一人一人個別に検査分析する」という個人差の研究と、「それを一般化する」というものがありました。これらは心理学が機能主義に移行した頃にジェームズらが個別の心理現象を捉えようとしたり、キャッテルがメンタルテストを提唱したことが影響しています。また、精神病理学における精神力動論(シャルコーなどがその代表)がフロイトの手によって「精神分析学」に発展し、人間の理解の幅が広がったことも臨床心理学の誕生に大きく影響しています。

そして戦争の影響を大きく受けていくことになるのです。その舞台は主としてアメリカでした。軍隊での選抜のために非言語式の知能検査が開発されたことが今の質問紙法心理検査へと発展していきましたし、第2次対戦中、隊員を心理面からフォローするために、臨床心理学者を養成する大学院制度が作られたことが、今の臨床心理士制度につながります(具体的には大学学部で基礎心理学を学び、大学院で5年間、臨床について実習したり、学んだり、研究したりして学位 Ph.Dを取ることによって、Clinical Psychologistになるというもの)。また、対戦と対戦の間の時期に児童相談運動から医師などとのチームアプローチが始まり、その下に心理学者も入ったことが、今の心理アセスメントや面接などにつながっています。

日本での臨床心理学はこれらアメリカのことが一通り終わった後、つまり、第2次対戦が終わってから始まりました。しかし、それも微々たるもので、1964年に作られた最初の学会は、学園闘争などでほとんど機能しませんでした。ようやく臨床心理学が形になってくるまでには長い時間がかかり、1982年に新しく学会が起こされた時を起点とすれば、学際としての歴史はまだ20年ちょっとしかありません

さて、アメリカでは臨床心理学はカウンセリング心理学、コンサルティング心理学といった風に細分化されています。その中で狭義の臨床心理学は最も重い病理状態のものを取り扱う分野を指します。日本ではこのような細分化はしていません。すべてを含んで臨床心理学と呼んでいます。

そのような違いを考えないで臨床心理学を捉えると、基本的には援助を目的として一個人の生き方や人格形成に直接関わることがメインテーマとなります。これはほかの心理学分野と大きく異なるところです。また近年は、ここに地域との関係なども含まれてきました。対象者も悩み程度の人から、重い精神障害を持つ人までとかなり幅広いといえます。そのため、医療分野や教育分野、産業分野や司法分野など、さまざまな場が実践の場となります。

心理臨床のスタンスは「治療」ではなく、あくまでその個人が自分でなんとかしていくその「援助」をすることです。そのため、診断的理解でなく、共感的理解が出来るかどうかが心理臨床家には求められます。また、対人理解も通常の他者理解よりもずっと幅が広く、深いものが必要です。この点もほかの心理学が科学的に心を明らかにしようとしているのとかなり異なります。

このように臨床心理学は比較的新しい分野であり、また人そのものと触れる、心理学の中でもかなり特殊なジャンルであることを覚えておいてください。

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