心理学のお勉強

人格心理学

人格理解の方法


人格を理解するには2つの種類あります。1つが構造とか機能を理解する人格研究の側面。もうひとつが特定の人の特徴を明らかにする個性記述的アプローチです。

前者は精神分析的、現象学的、行動主義的に分かれ、それぞれあとの回で説明しますから、ここでは個性記述的な面について説明しましょう。

個性記述的とは、普通、アセスメントと呼ばれるものを指します。いろいろな視点から、いろいろなテクニックを使って、個人の人格を総合的に理解し、それを深めること、それがアセスメントです。

心理アセスメントには現在の人格特徴を探る「パーソナリティアセスメント」と、どういう病気なのかを探る「診断的アセスメント」の2つがあります。パーソナリティアセスメントでは対人関係の特徴や自己概念を、診断的アセスメントでは自我の水準などを対象とします。

その人が今までどうやって生きてきたかという「生育史(パーソナリティヒストリー)」もよくアセスメントに使われます。親など他者との間の対人関係の歴史を見ることが出来ます。また、喪失体験、成長経験がどのように発達に影響してきたのかもこれで見ます。

また、家族をシステムとして捉えることも多く、その場合は家族を対象にアセスメントを行います。さまざま心理検査や観察、日記などの記録、音楽、絵などの芸術作品も使われます。

このように、さまざまな手段を使ってその人個人、そしてその周りを理解していきます。

このうち、人格に関する調査の多くは質問紙によって行われます。「ストレス対処質問紙(SCI)」「ベック式抑うつ質問紙(BDI)」「矢田部-ギルフォード性格検査(YG性格検査)」などは個人の傾向を評価するために用いられます。

YG性格検査用紙
でもってその結果プロフィール

また、その人が日常どのように暮らしているのかを観察する自然観察や実験場面を作って観察する実験観察、人格研究を目的に行う調査的面接や、個人面接、家族面接などのいわゆる臨床的面接もよく行われます。精神分析での「自由連想」や、普通のカウンセリングは臨床的面接です。

調査的面接は自我同一性の地位評定などで見られます。今が同一性が達成された段階なのか、モラトリアムなのか、同一性拡散なのかといったことを、職業などのいくつかの領域に関して質問し、判定します。このような判定は、個人を明らかにすることには違いありませんが、総合的にではなく、あくまで「自我同一性の地位」だけに限定している点で、普通のアセスメントと違います。

これに対し、臨床現場で行われる臨床的面接は、一般にカウンセリングや心理療法などといった形をとり、その人全体を理解するように努めます。

これら面接の場では、さまざまな心理検査も行います。自分をどんな人と思っているか、そういう意識に上っている自己像を見るには質問紙法が使われます。先ほどの「YG」や「ミネソタ多面人格目録(MMPI)」などは簡単に使えるので、よく用いられます。

しかし、このような意識的な自己像は自分をよく見せようとする効果が見られたり、必ずしもちゃんと測れないことがあります。そのためLie Scale(嘘の尺度)などを含んだものが作られていますが、それでも完全ではありません。また、無意識的なものは測れません。

そのため、自分で気づかない無意識的な自己像を知るために、投影法が用いられます

投影法の多くは、インクの染み(ロールシャッハテスト)、絵(TAT、バウムテスト、HTP)、文字埋め(SCT)など、頭で理解するというより、感覚で理解するものがほとんどです。そのため、自己の深い世界が答えに反映されるとされています。

実際に行う場合は、質問紙法と投影法、この2つをテストバッテリーという形で組み合わせて使います。こうして、意識的な面も無意識的な面もカバーするのです。

質問紙法の多くは、当てはまるか、当てはまらないか、そういう選択式の答え方をとります。これに対して、投影法の多くは「〜な感じ」とか、「〜に見える」、絵に描いてもらう、文章にしてもらうというように理解するのが難しい答え方です。そのため、投影法の心理検査を実施する場合は、多くの訓練と経験が必要とされます。

ここで、代表的な投影法であるロールシャッハテストについて説明してみましょう。

ロールシャッハによって1921年に発表された図版で、インクの染みがついたものを見せ、そしてその図をどう見たか、特に部分でどう見たかを点数にして表して、そこから人格の特徴を明らかにする検査です。色付きのもの、そうでないもの合わせて合計10枚あり、この10枚は全世界共通で、非公開です。そのため、一般に教科書に載っているものは、それを真似て作られています。

ロールシャッハ図版の偽物

ロールシャッハテストは子供でも、大人でも実施できるためよく用いられます。また同じ投影法である、1枚の紙に描かれた絵から物語を作ってもらうという「TAT(絵画統覚検査)」もよく用いられます。

このように投影法の多くの検査は、施行が難しく、また被験者に大きな負担を与えます。また、心理検査全体として、何が知りたいのか、そのためには何のテストを行えばいいのか、どうやって被験者に受けてもらうのか、などの判断はとても難しいです。そのため、自分がテストを実施している場面を指導員に見てもらうスーパービジョン経験は大変重要で、臨床心理の課程では必修といえるでしょう

少なくても簡単ではない、ということくらいは理解しておいてください。

心理検査は実施したら査定をします。ここでは、面接のときの具合などもトータルに勘案して、結果を解釈します。これは、医師が聴診器で胸の音を聞いたり、検査の結果を見たりしながら、その人の顔色なども考慮に入れて診断するのと似ています。

ただ、この結果に振り回されてはいけません。あくまでそれはそのテストの結果に過ぎないのです。そこから、どのように理解するか、それが最大の問題です。

具体的な人物像を描き出すには、環境条件やヒストリー、そして、さまざまな結果をトータルした上で、その人らしい人格をたたき出すことが重要です。そのためには、ベースとなる理論があります。次回以降はそうした理論を見ていこうと思います。