心理学のお勉強

心理測定法

精神物理学的測定法


今回は心理測定というテーマの中でも、特に感覚、知覚などの基礎系ではもう絶対に必須(ダブルミーニングな気がしますが)な、精神物理学的測定法というものをご紹介します。

ここでは細かい実験の内容は述べません。多分、知覚心理学とかで山ほど出てくるだろうからです。その基本的な考え方を、ここで確認しておきましょう。

精神物理学は、psychophysicsという言葉を訳したもので、フェヒナーという学者に端を発します。なんか難しそうな名前ですが、今の心理学でよく言う「弁別閾」とか、「主観的等価点」なんてもんは、みんなこれに基づいて測定がされています。

ちなみにこの閾というのは、感じるのに必要最小な物理量、つまり刺激の最小値のことです。

このように精神物理学的測定法では、どれだけ感じるか、というなことをメインに測定をしていきます。

[知覚心理学「知覚研究」]にも書いたんですが、閾値には「ここから感じることができる」という絶対閾、「ものの変化に気づく点」としての弁別閾の2つがあり、これに加えて、危ないからあまり測りませんが、「感じる最大値」である刺激頂、「同じものとして認知できる」主観的等価点(subjective point of equality, PSE)、「最も青らしい青」とか「絶対音感」のような、「被験者が持つ絶対的基準」である絶対的特性を、この測定法では測ることができます。

たとえば、「青信号」が緑に見えてしょうがない人って結構いると思います。これはある意味、作った人には「主観的に青と等価だった」わけですが、「被験者には緑らしい緑」なわけで、このように個人差がえてして激しい。

ということで、「青信号」をより「青信号」らしくしたかったら、たくさんの人の「青」の主観的等価点を測ってきて、それを元に信号を作れば、誰が見ても青に見えるようになるわけで、精神物理学的測定法が持つ意義というのは、このような点から見ても非常にあるといえます。

さて、実際の測定には4種類の方法があります。まずひとつが「調整法」で、これは被験者自らが刺激の量を調節していくやり方です。これに対して、実験者が上のレベルから下のレベルへ、みたいに一方通行的に調節するのが「極限法」 実験者がランダムに刺激を提示すれば「恒常法」といいます。

たとえば、視力検査は典型的な「極限法」です。普通、下に下げていく一方ですからね。あんまり、上行ったり、下行ったりと目があっちこっち振られるということはないと思います。

これに対して、ステレオのボリュームを調節するようなことは「調整法」といえるでしょう。エアコンの温度調整とかも自宅であれば自分でするでしょうから「調整法」かもしれません。

「恒常法」はあんまり日常生活で見かけませんが、たとえばそこら辺の道を走ってる車の色を見る、なんてのはどうでしょうか?

まあ、これら3つの中で一番簡単なのは「調整法」です。ただ、それだけ誤差が大きかったり、それを補うためには何度もやらなきゃいけなかったりと、いろいろあります。

この心理測定法の第1回で、「ミューラー・リヤーの錯視図形実験」ってのがありましたが、あそこでは調整法のみ紹介しました。でも、今書いたようにそれでは少し信頼性が落ちてしまうのです。

ということで、たとえば「実験図形をあらかじめ引っ張っておいてから渡して、それをまた調整してもらう」というように、「極限法+調整法」なことをやって、実際には実験が行われたりします。

ただ、これでも完璧とはいえません。ですので、もっと正確に測ろうとする場合には、「上下法」という手段で測ります

これは極限法の亜型みたいなもんで、極限法が一方通行的に下げるだけ、上げるだけだったのに対し、下げて被験者の反応が変化したら上げてみて、また変化したら下げてみて、のようなことを繰り返して平均をとるやり方です。

これは比較的短時間に確実な結果を導ける、ということで、よく使われます。視力検査も、細かく度を決めようとするとこんな形になりますよね(この前メガネ作るために眼科行ったばかりなんで、そんなトークばかりですが)。

さて、先ほど出た知覚心理学「知覚研究」のところにも書いたんですが、弁別閾の大きさは、基本とか、単位の元となる刺激(これを標準刺激といいます)の大きさにほぼ比例することが知られています。

ちょっとその「知覚研究」のところからコピーしてきましょう(これがオブジェクト指向です)。

「たとえば、手のひらに小麦粉を1グラムずつ乗せていくとします。ここで、9グラムまでは何も感じなかったけど、10グラムにした途端「重さがある」と感じた場合、この10グラムという値が、重さに関する絶対閾です。

そして、このあとも実験を続けて、15グラムになったとき、10グラムのときとは明らかに重さが違うなあ、と思ったら、この差5グラムが弁別閾の値ということになります。」

そうです。10グラムからはじめて、15グラムになったら重さが違うな、と感じたら、その差5グラムが弁別閾の値なのです。

で、20グラムからはじめた場合はどうなるか、ってのがここでの議論です。先ほども言いましたとおり、「標準刺激の大きさにほぼ比例する」わけですから、20グラム+10グラムのとき、はじめて重さが違う、と判断できます。30グラムなら15グラムですね。

このようなことを「ウェーバーの法則」といい、弁別閾ΔWと、標準刺激の大きさWとの間には、ΔW/W=一定という式が導けます

ここからさらに「小さなΔWと大きなΔWの意味は同じ(つまり、感覚の大きさは刺激の強さの対数に比例し増大する)」ということを述べたのが、フェヒナーの法則であって、それは、感覚の大きさをK、刺激の大きさをSとすると、E=K logSで導けます。

これはウェーバーの法則をいろいろ(微分して、積分したりして)いじると求まりますが、この辺は式を示すのが面倒なので割愛します。

まあ、このように精神物理学的測定法は基礎的な実験心理学では必須なものです。ぜひ、今までに書いたことを頭に叩き込んでおいていただきたいと思います。