心理学のお勉強

学習心理学

観察学習


学習というのは本当に体をはって経験しないとできないものでは何もありません。毒キノコを毒キノコだと認識するために、一度食べてみる、なんてことをやっていたら、その時点で死んでしまうわけです。

では、多くの学習はどうやっているのかといったら、目で見る「観察 watch」によるわけです。今回はそのお話。

「観察学習 observational learning」とは、モデルの行動を見るだけで、その行動を学習してしまうことを言います。より正確に言うなら、そのモデルが持つ「刺激−反応」の連合を、観察だけで学習してしまうということ。もちろん、聞くだけで学習できるとか、いろいろありますが、これは言葉をもつ人間だけができる(と考えられている)学習なので、そのもっとも単純なものが、観察学習だといえるでしょう。

観察学習とよく似たものに「模倣学習 imitation learning」がありますが、これはモデルと同じ事をしてみる、という学習形態なので、観察学習の前段階のものといえます。やってみないとダメなわけですからね。ただ、人間の模倣には言語が介在しますから、ほかの動物種の模倣とはちょっと違うものではあります(言語の持つ力はかなり大きいのです)。

たとえば、学校でやる体育の授業なんてのは、先生がやった事をみんなが見て、それを模倣することがベースになっていますし、そもそも、学校でやる授業の多くにこの模倣学習が見られます。

さて、レスポンデント条件付けの観察学習版が「代理的レスポンデント条件付け vicarious respondent conditioning」です。これを実験的に示したのがバーガーという人。無条件刺激の経験なしに条件付けができてしまうということですね。

もちろん、オペラント条件付けの観察学習版というのもあって、例えばひとつは「代理強化 vicarious reinforcement」 バンデューラによる実験、つまり、幼稚園の子供に暴力的なシーンを見せて、そのシーン上で、その行為を誉める、けなすってことをしたら、果たして真似るだろうか?という実験が有名です。結果として、モデルが正の罰を受けた場合、それが代理罰となって、特に女児の模倣が抑制されることがわかっています。

観察を何回したかというのもポイントになります。一般に、観察の回数が多いほど、学習の成績は上がります。でも、常識的に考えて、何度でも見ればいいというものでもないことは明らかです。たとえば、簡単な行動なら、ある程度少ない回数で会得してしまって、それ以降は学習が伸びないということが考えられます。この辺を明らかにするのがこれからの課題です。

ちょっと脱線しますが、課題で言ってしまえば、何で観察学習が成立するのかという認知過程も課題です。脳の中に「ミラーニューロン mirror neuron」というのがあって、どうもそこが模倣に関わっているらしいとか言われていますが、まだわかってないことのほうが多いです。

心理学的な「内的枠組み internal scheme」なんかも、「イメージが関係してんだろうなあ」「生理的なところはどうなんだろうなあ」とか言っているくらいで、まだまだ。

確かに、この手の話は突っ込んだら「意志 intention」なども絡んできそうなので、学習心理学のような立場ではなかなかやりにくいというところがありますが、それでも、これからの課題としてあげておくべきでしょう。

さて、観察学習の理論としては、ベアーとシャーマンが考えた「般化模倣 generalized imitation」(他の模倣反応が強化されることが般化する)や、それとは違う「媒介理論 mediation theory」(刺激と反応の間を媒介するもの(たとえば、人間で言えば、言語)があって、そこから目に見える反応を手がかりに内的な反応を引き起こす)なんてものがあります。

これらよりちょっと有名なのがバンデューラの「社会的学習理論 social learning theory」です。まず注意を払い、特徴をよく観察し、それを言語化して、一つのまとまりにして頭の中に入れる。そしてそれをリハーサルして記憶をより強固なものにし、行動への動機付けを高めたところで、やってみるというもの。難しい名前がついていますが、常識で考えりゃ、そりゃそうだろう、というお話です。

バンデューラと他の説の違いは、認知プロセスにどれだけフォーカスするかの違いです。そして、このような人間の多様な学習形態を理解するためにバンデューラが上げたキーワードが「自己効力感 self-efficacy」という概念。

自己効力感とは、自分が行動することで結果が起きるという「結果予測」と、それがうまくできるかどうかという「効力予期(=自己効力)」との兼ね合いから、「自分にもできる」とどれだけ思ってるかってこと。その自己効力感に関係する要因として挙げられているのがこの4つ。

・試行錯誤学習に代表される「制御体験 inactive mastery experience」
・ライブモデリング、シンボリックモデリング、つまり、観察学習などの「代理経験 vicarious experience」
・暗示とか勧告なんかの「言語的説得 verbal persuasion」
・弛緩やバイオフィードバック、象徴的脱感作などの「情動的喚起 physiological and affectivestates」

例えば私は、過去に試行錯誤したことで、楽器はなかなか扱えないなあ、と思っています。これは楽器を扱うことについて自己効力感が低いということです。

これに対して、人から励まされたりすると「できるかも」と思ったりします。これは言語的説得によって自己効力感が高められたということ。どういう話か、わかりますね?

自己効力感についてはそれだけで一つのコラムがかけてしまいますので、この辺で止めておきますが、興味がある方は調べてみるとよいでしょう。

ということで、観察学習の話はこの辺でおしまい。ていうか、皆さんがこの場でこれを読んだということが、ひとつの「観察学習」になっているってことです。簡単なことですね。