心理学のお勉強

学習心理学

初期経験と馴化


生まれてすぐに経験したことが、後々にまで影響を与える。これを「初期経験の効果」といいます。今回はこの学習とはちょっと違うのを少し考えることからはじめてみましょう。

初期経験の代表例が、刻印付けとか、刷り込みとか言われる「インプリティング imprinting」です。

この研究でいちばん有名なのは、動物行動学者のローレンツがやった実験。彼は、生まれた直後のカモのヒナを母親から離して、そのヒナといっしょに過ごしてみました。すると、そのヒナたちは彼を親だと思って、ずっと彼の後ろを付いて回るようになり、私はビデオで見ましたけど、彼が池の中に飛び込んで泳ぐと、ヒナたちもその後ろを追って、池の中に入っていたのです。

これによく似た現象は皇居のお堀とかで毎年のようによく起こります。そう、親ガモの後ろに子ガモがくっついていって起こる、あの「カモのお引越し」とか「大行進」という現象です。

カモ、ひいては、一般に成熟した、歩ける状態で生まれてくる鳥類においては、「最初に出会ったものが親である」と認識されると考えられています。そして、それがたとえ人間であっても、ボールのような物体であっても、追随するようになるのです。

これは社会関係に関するインプリンティングなのですが、これはでも、学習とは異なる側面を持っています。

たとえば、インプリンティングの結果生じる事態は、不可逆的です。つまり、一度追いかけだしたら、その対象を変えることはありません。一度ボールを親と決めたら、そのあと、本物の親が現れたとしても、見向きもしない。こういう変化が起きます。

もうひとつ違うのが、その学習が生じる期間は限られている、という点です。この期間のことを「臨界期 critical period」と呼びます。たとえば、さっきのカモの例でいえば、生まれてから24時間以内に見たものがその対象となりえます。

このような仕組みはなぜ出来上がっているのでしょうか?

それは、カモの例で考えてみれば、それが環境に適応させるための手段だから、と考えられるでしょう。

生まれたばかりはとかく外部の影響を受けやすいものです。その生まれたときに「自分のそばにいてくれる」安心できる他者を見つけることができれば、その影響を少しは減らせられるかもしれません。このような行動のため、このインプリンティングを「本能的行動」とする人もいます。

また、このようなことはほかにも見られて、たとえば、自分の母親と同じような色のパートナーを見つけるという「ハトの性的インプリンティング」とか、鳥の鳴き声(さえずり)なんかでもこのようなものがあることがわかっています。

ただ、人間とか他の動物にはこういう現象は見られず、鳥類に特徴的なものということができるでしょう。

さて、インプリンティングのようなものは最初、そのときに経験したことが大きなパワーを持ちます。

でも、世の中には何度か経験しているうちに、ものが変わってくるというものもあります。特に、「慣れる」という現象、つまり、刺激を繰り返すことで、反応が次第に減弱していく現象はみなさんもよく経験することでしょう。このことを心理学では「馴化 habituation」といいます。

たとえば、とても静かな空間で、カタッと何かが動く音がしたとしましょう。最初のうちはそれが気になって、見に行ってみたり、様子を探ってみたりすると思います。このような反応は「おや、なんだ?反応 what-is-it response」といわれ、「定位反応 orieting response」ということができるでしょう。

さて、そういうことが何回か続くとします。すると、だんだんその音に慣れてしまって、少しの音では行動しなくなることでしょう。もし反応するとしたら、今までと違う音がしたとか、音がでかくなったとか、そんなときで、つまり、慣れると気にならなくなってしまうのです(もちろん、その逆に、刺激に対してより過敏になる「鋭敏化 sensitization」というものもあります。これは刺激が複雑だったりすると起こります)。

このように、普通は「馴化」というものによって、反応が「省エネ」されています。これはよく考えてみると非常によくできた仕組みで、なんでもかんでも刺激に反応していたら、多分、すぐ疲れてしまうだろうし、大変だと思うのですね。それが、この馴化によって、いい具合に気になるものだけ反応する仕組みになっていますので、必要なところに注意を向けることができたり、いろいろなことが同時にできたりするのではないでしょうか。

馴化の特徴をまとめておきましょう。このような特徴は、順化が学習とはちょっと違う性質のものであることを表しています。

1) 強い(複雑な)刺激より、弱い(単純な)刺激のほうが早く馴化する。
2) 強い刺激に馴化した場合は、少々の刺激には反応しなくなる。つまり、大きな馴化となる。
3) 1つの馴化は、似た刺激にも働く。似ていれば似ているほど、馴化の程度も大きい(刺激般化 stimulus generalization)。
4) 馴化によって一旦起こらなくなった反応は休憩をはさむと復活する(自発的回復 spontaneous recovery)。
5) 新しい刺激が与えられると、反応は再び現れる(脱馴化 dishabituation)。
6) 短い感覚で刺激を与えるときのほうが、馴化の速度は速い。

今回は初期経験と馴化について見ましたけれど、学習とは少し違うものとはいえ、非常に大事なものであることは言うまでもありません。また、両方とも、非常に面白い性質のものであるといえます。気になった方は、自分で調べてみてください。