心理学のお勉強

カウンセリング

カウンセリングの準備


「カウンセリングに入る前」の話です。今回はそれを「スーパーヴィジョン」という視点から考えてみたいと思います。

アメリカではカウンセリングのテクニックが200近くあるといいます。その中で私たちが学ぶテクニックというのは、ほとんど偶然によって決まるわけですが(入った大学や、誰が指導者になったかとか、そういうものによることが多い)、実はその過程、例えば大学院とかで行われる実践勉強の1つが「スーパーヴィジョン super vision」です。

普通、スーパーヴィジョンというと、受け持ったクライアントに対するカウンセリングを指導者(supervisor)の前で報告したり、指導を受けたりすることを指します。50分面接したなら、1時間ほどスーパーヴィジョンを受けるのが一般的でしょうか。

ここでは、クライアントの心理や病態を理解しているか、介入の仕方は適切か、それは適切な介入なのかなどが問われてきます。普通は数例を2、3年かけて行っていきますが、実はこの基本の基本、「理解しているか」ということが、「カウセリングに入る前」と大きく関わっています。

基本的に、クライアントについて「いい理解」が出来ていなければ、いいカウンセリングは出来るわけがありません。そのためには、カウンセリング中に起こる理解だけではなくて、そのクライアントに対する基礎的な理解が必要となってきます。実はこれは、「カウンセリングに入る前」に求めます。

具体的に「カウンセリングに入る前」を考えてみましょう。

はじめてカウンセリングルームに訪れる、これを「インテイク intake の時期」と呼びますが、このとき、クライアントの持つ相談事、つまり「主訴 chief complant」をはっきりさせるために、今までの病歴やその他のことを、クライアントのペースに沿って聞いていくことがあります。

その他のこととは、たとえば、どうやってここに来たのか?という「来談経路」や、趣味、友人関係、教育歴、学校での成績(これは自尊心を傷つける可能性があるから無理には聞き出さない)、そして、父母の年齢、職業、健康状態といったファミリー・ヒストリーなどが入るでしょう。

そして、最終的には、あまり「心理に立ち入らない形で」症候学的に1つの診断を下すわけですが、さて、これを、スーパーヴィジョンの視点に立てば、この診断はのちのちのカウンセリングに大きく影響を与えてきます。

例えば、カウンセリングを行うことで「潜在性精神病 latent psychosis」というものを引き起こす、つまり、有害に働いてしまうことがあります。これはこのファーストステップの段階で、ある程度見抜いておかなければなりません。そしてできれば、コンサルテーションを行うことが求められてくるでしょう。

ですから、スーパーヴィジョンではまずここがうまくいっているのか、検討されることになります。

さて、この診断の結果、カウンセリングを実施することとなったのならば、クライアント本人の生活史をたずねていくことになります。

たとえば、生まれたとき早産や難産じゃなかったか、母乳で育ったのか人工乳だったのか、指しゃぶりはあったのか、発語や歩行開始の年齢、小さなときに入院や手術をしていないか、最初の記憶は、子供の時は親をどう感じていたか、親の育児態度は、どっちの親に親近感を持っていたのか、両親とはどんな関係だったのか、引越しはしたか、思春期以降の話しに入ったら、性についてや、結婚しているのなら相手との関係、子供がいるのならその子供との関係……。

つまり、「生活史 life history」とは、クライアントの発達史のことです。これは非常に細部にわたります。そしてまた、先ほどと違って、「心理に立ち入って」物事を考えていきます。事実がどうだったかではなくて、どう感じたか、つまり「心的現実 psychic reality」を大事にします

このとき、基本的には自由に話させ、触れたくなさそうな話題やクライアントの人生の中で反復されたり、似た反応をした体験に特に注意を払うことが求められます。これは、力動的な立場から見れば、過去が現在に対して大きな影響を与えているという大前提の上、その過去から解放することが治療の目的なのですから、そういうところに注目していくことになるわけです。

そしてこの生活史と、前の症候学的診断、ほかに、パーソナリティのあり方や環境などをちゃんと考慮に入れて、最終的な病因とその意味を考えることとなります。これを「定式化 formmulation」といいます。

この「定式化」が治療計画につながるわけで、これにはクライアントの事実をちゃんとまとめるという意味以外に、クライアントを理解することでカウンセラー自身が落ち着くとか、クライアント自身のカウンセリングに向かう動機付けになるなど、さまざまな効果が見出えうわけですが、スーパーヴィジョンの視点で見れば、この「定式化」に誤りがあったり、偏ったものがあったりしたら、その後のカウンセリングがうまく進まないことは明らかです。

このように心理臨床の教育の中でスーパーヴィジョンが取り入れられているのは、単に、カウンセリングがうまくいっているかどうかだけではなくて、ちゃんと理解できているかとか、他に気にするべき点はないのかどうかなどを、ちゃんと見直す必要があるからです。

そしてその、クライアントを理解する、という中に「カウンセリングに入る前」が結構重要な役割を占めていることを少しばかり知っておいていただければ、と思います。