cafe de psyche

環境。(06年1月)


驚くべきかな、2006年が始まってしまいました。psycho lab.も知らぬ間に5年目ですよ、5年目。相変わらず完成が見えませんが、「もういいや、諦めた」というモードで今後もお付き合いいただけると幸いです。ということで、あけましておめでとうございますです。

さて、私は年初一発目の行事が「口頭試問」だったりします。はい。研究論文を書いて、それを面と向かって審査してもらう場ですな。心が強い人間じゃないと、すぐにへこたれちゃうような行事であります。

でまあ、そんな行事を直前にして何を書いているのかというと、日本ってのはお勉強しにくい環境だなあ、ってこと。

ちなみに、ここで言うお勉強ってのは学校でやる勉強とか、塾とか行くことではないですよ? 自分で、自分の意志で好きなだけ知識を蓄えちまおう!というお話。

たとえばさ、心理学の最先端に触れようと思ったら、やっぱり、学会ってのに関わらないといけないわけですよ。研究論文なんてのはそこでないと読めないしね。

でも、そもそも日本は学会の数が多すぎる。心理学だけで一体いくつあるんでしょう。そこかしこに入ってしまって学会費で首が回らなくなる、なんていうリアルに悲惨な事件もあるでしょうし、あっちこっちに情報が散らばっててつかみにくかったりもする。どうにかならんのか、と大手を振って叫びたいとは思いませんか(誰に訴えているのだろう)。

そこいくと、APA(アメリカ心理学会)の場合、1つの学会の中に「部局」としてそれぞれの分野の集まる場が設けられてるわけです。これはコスト的に優れているし、情報を仕入れるときもすごく楽。心理学っていう学問は、この世にあるほとんど全部の学問と絡む可能性があるわけで、こういう総合的なシステムになってないとダメだと思うのですが、どうなのでしょう。

それに、日本の学会は入会自体が結構大変です。学生の立場で入るには、大学の先生の推薦がないと入れないところがあったりする。

APAの場合、興味があれば高校生だって入ることができるわけです。しかも、年間25ドル。3000円以下ですよ。それで、学生向けなサービスが充実してたりする。例えば、大学生だったら、psychBetaに参加してみるとかできるし、大学院生だったら、gradPsych読んだり、psy chiなんてクラブに入っちゃうとかできる。

日本にはそういう、学生の「なんかやろう!」という気持ちを裏支えするようなシステムがないような気がしてなりません。卒論とか、修論とか、やってみればわかるけど、めちゃ「孤独な戦い」って感じになったりするし、卒業したら心理な仕事!とかいっても、そんな希望は世間という名のバズーカ砲でいとも簡単に打ち抜かれますからね。もうどうすりゃいいのよ!って感じ。

そもそも、日々アップデートするような、時々刻々なニュース自体、相当がんばらないと日本では入手できない。APAにはPsycPORTなんていう、心理学専門のニュースソースサイトがあるのに、です。へえ、あんなところにこんな記事載ってんだあ、と知ることが出来るのに、です。

ていうか、Psychology Todayみたいな「月刊軽い読み物雑誌」すら日本にはないですね。ようは、「Newton」 みたいな雑誌。それを日本じゃ、この雑誌読むためだけに大学の図書館行かないとダメなのですよ(じゃなきゃ、アメリカから直輸入とか、洋書に強い本屋さんでゲット)。

何でこう、手順簡単、楽しんで真剣にお勉強するってことが日本では難しいのかなあ、とか思ったりします。興味がむくって湧いたときに、さっと触れられる感じというか。それは、心理学に限らず、どんな学問でも。大学なんか入らなくても「へえそうなんだ」って最先端に触れられてもいいのにね。専門外でも、さっくりと参加できるようになってたら、楽しくていいと思うんですが、いかがでしょう。

もちろん、ハイエンドな領域はハイエンドな人たちが集まって、それで物事を進めていけばいいわけです。でも、興味を持って、これからやろうかな、って人、特に、学生がちょこっと関われるような仕組みができていれば、いいなあ、と夢想するわけ。せめて、ネット上だけでもいいから、そういうのがあるといいですな、うん。

日本では大学院への進学率が上がる一方という話を聞いたりすると、そういうことはより大事になってくるんじゃないかな、とか思ったりしています。

ちなみに。APAのサイトの「Salaries in Psychology」をふらっと見ていたら、2001年現在、博士号クラスで資格を持った臨床心理士は年間7万ドル稼いでるらしい。カウンセラーで6万6500ドル、スクールカウンセラーで7万7000ドル。これ、日本円に直すと、それぞれ840万円、798万円、924万円ですよ。

応用心理学、例えば、人事考査とか、組織のコンサルテーションとか装置のデザインとか、そういう臨床とは関係ない分野の人だと、9万6000ドル(1152万円)。マーケティングリサーチみたいなところで仕事している人でも、7万9000ドル(948万円)。

まあ、アメリカと日本じゃ学位の意味が違う(日本では博士号が「すごいもん」みたいに思われていますが、アメリカではある程度の会社に入るには、はなから必要だったりするくらいメジャー。っていうか、基礎資格。博士になってようやくスタートラインです。だからそもそも、研究科によっては修士課程、博士課程と分けること自体しなかったりする(全部ひっくるめて、graduate program)。修士ってのは、博士課程に行ったものの「挫折した」(または、学校側から「諦めさせられた」)人間が取るものと思われている節すらあります。ていうか、大学院自体、働いている人が行く場所って感じだよね、日本と違って。diploma millにも気をつけないといけないし(よく来るのよ、このメール))ので、日本のそれとはえらい違うことは差っぴくとしても、日本で心理系の給料がこのレベルに達するのは相当遠い未来だろうなあ。

ていうか、そんな未来、来ないかもしれないなあ、とちょっと悲観的立場に立ってみた、きょうこの頃。