cafe de psyche

耕作中。(05年4月)


また、春がやってまいりました。私はこの場で何回この言葉を書いたんだ!?と結構、驚いておりますが、桜舞い散る2005年4月の第2週です。個人的には、M2(修士課程2年)になってはじめての研究発表を何とか乗り越え、ホッと一息ついているところです。

さて私、今、情報学という学際分野にいます。この分野が一体どんなところなのか、学部のときにやってた心理学と、どんなところが絡んでたりするのか、今回はそんなことを書いてみたいと思います。

「情報学 Infomatics」というのは、単純に言えば、人間が触れる情報について考える学問です。情報なら何だってターゲットになりうるので、紙に書かれたことから、目には見えない文化とか、このインターネットの世界とか、人の心とか、下手すれば遺伝子とかだって、研究対象になりえます。そういや、文化を遺伝子みたいに考えた、「ミーム学 Memetics」なんてのもありましたね。

私はその中で、ネットに関わるいろんなことを考えております。例えば、この間の研究発表ではインターネットに関わる話を経済学だの、心理学だの、いろんな側面からえぐってみました。えぐりまくって、会場からは、ほう、とか、意外ですなあ、とか、いろんな言葉をもらったのですが、まあ、それはそれとして。

この情報学という場では、学問の間にあるボーダーラインってのを全然考えません。工学だろうが、言語学だろうが、経済学だろうが、心理学だろうが、使える理屈は何でも引っ張ってくるのです。で、それが当たり前なのですが、これ、結構怖いもので、他の学問をちゃんと知らないと、話についていけないし、えらいトラップに引っかかりかねなかったりします。

例えば、私が研究発表したその場では、大学教育を経済学的な「費用対効果 return on investment」から見て効率的にやるには、教育心理学の世界でよく知られる「社会的構成主義 social constructivism」(学校の場では教科書から教わることばっかりじゃなくて、みんなが一緒になって経験することでスキルアップしていくことがあるんだというもの。ヴィゴツキーなんかが有名)とかを持ち出して、「WBT web based training」と、実場面のシミュレーションや実習の組み合わせでやるのどうだろう?とか提案がありました。

教育学、経済学、心理学、情報科学、いろんなものが混ざりまくりです。

情報学といえばコンピュータなんて考えて、スクリーンに表示される色について研究しようとしている人もいました。でも、これも混ざりまくり。なんでって、スクリーンは工学的なものですが、色ってのは人間の認知に関わるもの、色そのものは、色彩論など、芸術の世界で結構語られていることだからです。

具体的に考えてみよう。内部に光源があるモニタの場合、そこで表現される色は光の三原色「RGB red, green, blue」、印刷のように、光を反射するものの場合、色の三原色「CMY cyan, magenta, yellow」で表現されます。まあ、実際の印刷では、文字などで大量に必要となる黒に対処して、CMYKで対処するとか、そういうことはここではいいとして、ここら辺、デザインとか、グラフィックを勉強する人には常識的な話ですね。

で、今のパソコンなんかだと、人間が認識できる色の数の値と同じになるようにRGBは24bit=256の3乗=16の6乗=約1677万色の色を再現できるようになってます。まあ、ここら辺もwebを作っている皆さんなら#ff0000(ちなみにこれで赤の意)とかで指定したりしますからわかるでしょう。

さあ、コアの話しに入りますよ。1677万色、確かに人間は見分けることができるわけですが、しかし実際問題、人間はいっぱいある色の間の違いはよくは指摘できないのです。よっぽど色が異なっていれば(例えば、赤と青みたいに色相(色の属性のこと)が違うとか)表現のしようもありますけど、似通っている色、例えば、パステルブルーとペールブルーとライトブルーの差なんて、ちょっと薄いなあ、濃いなあなんていう感じでしか表現できないわけ。

そうなると、1600万色全部考えなくても、人間がはっきり違うと感じるものだけに絞って研究をやったほうが楽といえるかもしれないわけですよ。つまり、人間の認知的にRGBはどんな風に捉えられるのか?ってのが問題になってくるわけ。

そんな時、心理学、特に視覚関係の研究でやってたことが登場となるのです。

RGB自体、何によるのかってのも研究では問題になりますね。国際規格の「sRGB」か、「Adobe RGB」か。こうなると、コマーシャル・フォトとか、MdNによく載ってるカラーマネージメントの記事みたいなことまで考えないといけない(^^;)

つまり、最先端の学問になればなるほど、ひとつの中に閉じこもっていられないということです。いろんなところに出ていかないと、全然ダメなわけ。少なくても、情報学というのはそういう分野なのであります。

同じ研究発表で出ていた、「ナレッジ・マネージメント knowledge management」(みんなで知識共有すること)の話なんて、ベース理論がいろんなもんの交じり合いの上に、実際の場面では、「XML eXtensible Markup Language」でデータベース作って、それを「XSLT eXtensible Stylesheet Language Transformation」でデザインをスイッチしてウェブブラウザで見られるようにするとかあって、そんなの、「CSS Cascading Stylesheet」でまだあっぷあっぷしているウェブデザインの世界にいる人にはよくわかんないよ、みたいなもんだったりした(XSLTは慶応SFCのウェブサイトにある「design switch」とか、KDDI DESIGNING STUDIOのサイトにある同様のスイッチで使われてたりするけど、こんなの先駆例だし)。

しかもそこでユーザーからアンケートをとって解析するとかいう、社会科学的な質的調査が入ってたりして、もうどれだけのものが交じり合うんでしょう、論文では、という感じでございました。

こんな風に、情報学というのは交じり合いの場でございまして、今はその場にいる私です。

心理学をやろう!って人から見れば、ここに書いた言葉の半分くらいは全然わかんないというか、心理学と関係ないじゃないか!と思うことでしょう。でも、今の研究というのは、そんなに閉鎖的なものではなくて、逆にいろんなものがコラボレーションしてくる世界なのです。枠にとらわれている必要も、古いものにとらわれている必要もない。それが今の研究といえるでしょう。

ちなみに、現場で必要とされる心理学というのは認知や知覚、学習といった基礎的のものです。内容的には古典的なものから、アフォーダンスのような比較的新しいものまで、様々なものにお呼びがかかります。正直、相当広範な知識がないと、やっていけないのが現状。私自身、今この分野にいて、こんなにも心理学の知識にお呼びがかかるとは思ってなかったくらいです(^^;) 「ウェブデザインと心理学」で書いたことは、何も、ウェブデザインの世界だけじゃないんだなあ、って感じ。

そんなわけで今回は、今私がいる、この場について書いてみましたが、何せ、みんなが自分の畑を耕している途中ですので、非常にエキサイティング。修士論文を書き上げるまでに後8ヶ月くらいしかありませんが、がんばって、最後まで、楽しんで、へばりついていきたいと思っております。