cafe de psyche

ウェブデザインと心理学(05年1月)


私、ネット上であれこれやっているせいで、ウェブデザインというものに取り組んでいる面があります(お仕事募集中)。ウェブデザイン、なんか言葉の響きがいいですね。やってることは、ご覧になっている「これ」を設計すること、ととても地味です。「ウェブデザイナー」と呼ぶと、なんだかかっこいい仕事に感じますが(憧れている人だっていそうだ)、実際はパソコンとじーっとにらめっこしながらちまちまとしたことをして、しょっちゅう肩が凝って、椅子から立ち上がろうとすると腰が痛くて、徹夜が続いて、目が悪くなる職業です(この辺の実態は「ウェブクリエイターのハローワーク」(月夜野凛子・著/毎日コミュニケーションズ)に詳しく書かれているので、興味がある方はぜひそちらをご参照のこと)。

で、そのウェブデザインの世界、最近なんだか、あちらこちらで心理学の概念と衝突しているようでございます。ウェブデザイン関係の雑誌をぱらぱらと読んでおりますと、「知覚」だ「アフォーダンス」だと、心理学特有の知識に触れることが出来る、今日この頃。

例えば、2005年1月発売の「Web Designing」の特集(「興味を惹く」のひみつをさぐる)、しょっぱなでいきなりあの心理学者、ボウルビィが登場します。なぜ発達心理学、しかも愛着なのか?と疑問がありますが、東大の先生が原稿書いているらしく、突っ込めません(強いものには弱い、っていうか、その人はウェブデザインが専門の人なのだろうか?と別なことに疑問)。

これだけでなく、2004年11月発売の「web creators」の特集(いま求められるWEBデザインの知識と技)では認知心理学が登場。あのノーマンの考え方なんかが紹介されておりました。でもって、その次の月の号の第2特集(メニューデザインの設計手法)では、アフォーダンスです。アフォーダンスなんて、心理学を今大学で学んでいる人だって、なかなか知りません。それが門外漢のウェブデザイナに向けて解説されている、この面白さ。

例えば、色の話とか(高校の美術の時間でもやる「補色の関係」など)なら、まあ、グラフィックデザインの基礎みたいなもんですから、話として出てくるのもわからないのではないのだけれど、ここまで専門的な問題がウェブデザインの文脈で語られるのは、なんとなく変だなあ、とか思っている最近です。

私、ウェブを作って、早7年目になります。で、振り返ると、このような記事、1年位前から急に増えてきたような気がする。

それまではティップス(tips. ちょっとした役立つ情報)がメインで、それこそ、MacintoshとWindowsじゃ文字の扱いが違うから気をつけろよ〜とか、そういうのが多かった気がするんだけど、なんかここ最近、急に「デザインそのものの考え方」みたいなモードが訪れているような気がします。多分、ここには技術としてのウェブデザインというものがある程度成熟してきたことが言えるでしょう。

私がウェブに関わり始めた6年前、その頃はちょうど「ブラウザ戦争」と呼ばれる頃で、Internet ExplorerとNetscape Navigatorがシェア争いのために、めっちゃくちゃなことになっていた時代でした。まだ、FLASHも一般的ではなく、びゅんびゅん動くアニメーションをあちらこちらで見ることができる、なんていう時代でもなかった。どっちかって言えば、遅ーい電話線で「ぴーがるるるるる」なんて言わせながら、サイトを見てた。

この頃は言ってみれば、ウェブデザイン黎明期で、「Web Designing」も「web creators」もどっちも存在していなかった時代です。たいした技術もなくて、みんなが頭ひねって、知恵を出して、それでなんか面白いことやろう、ってやってた時代。「design plex」を読んで、「おお!」とか言っていた時代です。

ウェブ制作会社なんてものも全然なかったし、ウェブデザイナなんていったら、「誰?それ」っていう状況だった。ウェブなんて、個人が遊びで作るものでした。今みたいに、地方の小さな会社だって「ホームページ」を持っているような時代じゃなかったのです。

でも、あれから時は流れた。今じゃ、ブロードバンドが当たり前で、「ネットでビデオ」なんて当たり前な時代です。ブラウザ戦争なんてものも、いつの間にやら、かたがついちゃって、どっちかって言えば、あの失敗から立ち直ろうと、技術を標準化したりとか、いろいろとやってきた過去ができている。

ウェブ作るのだって、昔はぽちぽちとHTMLを手打ちしていたけれど、今ではそんなことする人は多くないでしょう。少なくても最近始めた人なら、なんかのソフトを使って作ることが多いと思う。ブラウザのせいで「使えない使えない」と言われてきたスタイルシート(Cascading Style Sheet)だって、今じゃ、使わないほうがおかしいなんて思われてしまう時代。

ウェブを作るって事がお金になる時代になって、会社もいっぱい出来た。SOHOなんて言葉がかっこよかった頃、そんなの夢だとみんな思ってたけど、今、多くのウェブデザイナはSOHOで仕事してます。そうそう、ウェブデザイナという職業もある程度確立してきて、そこへの道筋を立てるような専門学校もいっぱいできました(何を教えているかは知りませんが)。ほんと、時代は変わったなあ、という感じです。

その変化と共に、ものの考え方が「デザインの本質を考える」方向に変わってきた気がする。ユーザにとって効果的なデザインというのを考えるときに、人間のことを科学している「心理学」というツールが目に入るようになってきた、と言えるかもしれません。

確かに、世の中に溢れるものを考えてみると、人間の事を考えて作られているものが結構あります。例えば、自動販売機のコイン投入口、縦になってたり、横になってたりします。ああいうのを始めとして、ピクトグラム(道路標識とか、そういったもん)とか、電化製品とか、身の回りに溢れるありとあらゆるものが人間のことを考えて作られている。そうは感じられないかもしれないけど、あなたのことを考えて作られているものって、結構あるのです。ウェブもそういう方向に向かいつつあるってことでしょう。

でも、それと同時に、こうも思います。わざわざ、難しく考えることもないんじゃないかと。わざわざ心理学なんていうものに頼らなくても、デザインなんて、自分の目で客観的に見て、見やすいようにやればいいんじゃないかと。

どうなんでしょう?

いつものように議論がまとまりませんが、いろんなところに心理学が絡んでいるということで、きょうのところは終止符を打っておきます。