cafe de psyche

レポートを書こう。(2002年11月)


大学生ともなると、書くことが異常に多くなります。それも高校の作文、なんてレベルではなくて、ちゃんと論理的にしっかりとしたものを書かきゃいけない、ってことが多くて、それは心理学だって同じ。

今日はその舞台裏を取り上げましょう。

これは「社会心理学実習」という授業で行った調査のレポートを書くところです。下の写真を見てください。

レポート必須道具。

まず、調査用紙。質問紙ですね。今回の調査は集団主義に関するものだったので、それに対応する質問紙です。こういうのは過去の論文を探したり、それ専門の本を探して使ったりします。使えないようなら、作るしかなきゃない。これはすごく大変なこと。

でもって、データシート。集計用紙です。ここに調査したデータを写していきます。今回の場合データ数が40くらいなのでペーパーで何とかなりますが、もう少し多くなるとパソコンでやったほうが早いですね。あとの計算とか考えると。

でもって、定規。ここではそれが見当たらなかったので、テレホンカードを使いました。これはグラフを書くときに使います。相関なんか見るときには絶対必要。これもパソコンなら自動的にやってくれますが、大学生の分際なら手でやるべきです。

ほいで、関数電卓。これは相関係数を出すのに使います。今の関数電卓には統計機能もありますから、40くらいのデータ数ならこんなもんで計算できます。SPSSだのなんだのを使うなんてのは高級。まずは手でやろう。

とりあえずこれだけあれば調査やって、集計して、計算して、レポートまでいけます。ま、その間に調査先との折衝だったりなんだりが本物の研究ではあるわけですが、これはあくまで授業内でのことですので、そこは考えません。

本当の研究はとにかく大変です。時間もありませんし、お金もありません。いい研究になれば文部科学省の科学研究費(科研費)で予算が出たりしますが、大学生ではそんなこと期待できないし(当たり前)、とにかく大事になるのが発想力。

ま、そんなことは置いておいて、とりあえずちゃちゃっとレポート書いてみましょう。

集団主義的傾向と年齢との関係について

目的
個人が集団の中で活動するとき、集団全体の利益と個人の利益は必ずしも一致しない。この時、個人の利益よりも集団の利益を優先させる傾向のことをここでは集団主義と呼ぶ。
アジア人は欧米人と比べると集団主義的であることが知られている。これはたとえば日本人であれば伝統的な価値観が集団主義的であるということである。しかし、近年の経済的な発展に伴い、伝統的な価値観は若者の間では薄れていっていることが予想される。若年層ほど個人主義的な傾向を持つ可能性があり、また高齢になればなるほど、伝統的な価値観の影響を受け、集団主義的な傾向を持つと考えられる。
本調査では、集団主義尺度で測定された個人の集団主義的傾向が年齢とどのように関連しているかを調べる。ここでは特に友人集団における集団主義的傾向を取り上げる。

方法
H大学生涯学習センターの受講者67名(男性36名、女性31名、平均年齢41.5歳)に集団主義尺度(改訂版)(Yamaguchi et al., 1995)への回答を求めた。この尺度にある項目は、それぞれ個人と集団の利害が対立したときに集団の利益を優先させるか個人の利益を優先させるかに関わっており、それぞれの項目に対する回答を合計して集団主義得点を算出する。なお集団は友人集団と定義されていた。
回答者はさらに年齢、性別などについても訊ねられた。

結果と考察
集計後、相関分析を行った。その結果、集団主義得点と年齢の間には強い相関が見られた(r=.54)。このことは年齢が高いほど文化的価値観としての集団主義に影響されていることを示唆する。なお、男女別に集団主義得点の平均を取ると、男性41.8点、女性41.6点と差違は見られなかった。

総合的考察
本調査は集団主義の程度が年齢によって異なることを改めて示すために行われたものである。そのため、この調査だけでは因果関係は明確ではない。個人の自尊心(Self esteem)との関係や対人関係などとの関係も明らかではない。また、調査対象も等質的とはいえない。そのような点はさらに改善の余地がある。

参考文献
Yamaguchi, S., Kuhlman, D. M., & Sugimori, S. 1995 Personality correlates of allocentric tendencies in individualistic and collectivistic cultures. Jounal of Cross-Cultural Psychology, 26, 658-672.

これでオーケー(図表はスキャンするのが面倒くさかったので、割愛)。

こういうのは心理学研究法とかそういうのを勉強すればおのずとわかることですし、図書館とかにもぐりこんで学会誌でも読めば、大体わかります。とにかく、慣れが大事。

講義レポの場合はもうちょっとラフな書き方になりますね。とにかく自分の興味があることを調べたなりに書くとか、感想を書くとか、そんな程度ですから。

ちょっと前に書いた「パラサイト・シングルについて」のレポートがこれに当たります。

パラサイト・シングルについて

近年、学校を卒業したあとでも自宅に住み続け、家事を親にしてもらいつつ、仕事をしながら自由に生活をする人たちが増えている。これを東京学芸大学の山田氏は「パラサイト(寄生)・シングル」と名づけている。

このような人たちが増えている背景には、それまでの、子供は成長したら労働力、という概念がぬぐい捨てられ、子供は家庭で愛し育てていくもの、という考えが増えていること、そしてそれに核家族化が拍車をかけていることが言われている。実際、パラサイト・シングルの家庭のほとんどは核家族であり、また、普通の生活を送っている、つまり、所得が必ずしも豊かというわけではない人たちなのである。

実際、1200万人くらいの人たちがパラサイトな生活を送っており、それは20歳以上の人の68%にもなる。この人たちは必ずしも高学歴というわけではないが、だからといって生活に不満があるわけではない。どちらかといえばその逆で、生活への満足度は非常に高い。たとえば、未婚女性の42%はお小遣いが10万円を超えているし、それによってブランド物のバッグや靴などの所有率も高い。また、意識調査を行っても今の生活には満足している人が多い。

では、家にいるからといって家事をするか、というとそうでもない。男女かかわらず、パラサイトな人たちのほとんどは家事をしないことが都市部でも地方でも共通して言える。

だからといって、一生結婚しないと考えているわけでもない。あえて言うならするかしないか、どちらでもないと答える人が近年は増えているのである。この裏には結婚に魅力がないと感じている人が増えていること、そして、今の自由な生活ができるなら結婚してもいい、のように理想が高くなっていることが指摘できるであろう。実際、独身の利点を自由な生活ができることにおく人が多い。

そしてまた、親との関係も変化している。パラサイトな人たちの親の多くは40歳代後半から60歳代前半に集中するのだが、特に母親−娘関係の間で「友達化」が見られる。つまり、親子の付き合いが友人のようなものであってもいいのである。

社会の流れから考えれば、パラサイトな人たちが増えれば増えるほど、少子化は進むし、経済などへの影響も増えてくる。しかし私はそれをネガティブに捉えることが本当に正しいのか、と疑問に思う。

親子の相互依存関係によって成立しているパラサイト・シングルは、それ自体がひとつの家族の形であり、ダイナミックなものなのである。今の議論の多くはこれはいけない状態で、社会自体をなんとかよくして、この状態を解消し、それぞれ自立して生きられるようにしたり、結婚に夢や希望が持てるようにしていこうとしている。しかし、それが本当にパラサイト・シングルを考える上で正しいことなのであろうか。

ある意味でこの現実を受け入れて、パラサイトな人たちでも、そうでなくても生活がしやすいような社会を作っていくほうが、結果的には問題の解決につながるように思えて仕方がない。つまり、寄生、と捉えること自体が、ある意味ではゆがんだ見方ではないかと考える。

パラサイト・シングルが増えたことは社会の1つの現れである。あるがままに受け入れ、それから今後を考えることが大事ではないかと思う。

このようなレポートを書くコツは、とにかく考えること。考えなければ何も出てきません。で、とりあえず下手な文章でもいいから、人に伝えるよう努力することも大事。そういうことができれば大丈夫だと思います。

さて、またいっちょ書きますか…。