心理学のお勉強

臨床心理学

心理検査−質問紙法


心理検査というのは「行動のサンプルをとって、観察して、記述する標準化された手段」のことです。この中でも最も標準化が著しいのが、知能検査などに用いられる質問紙といえるでしょう。

クライアントの行動すべてを得るのはたやすいことではありません。どちらかといえば、無理です。ですので、質問紙が与えるものも、あくまで一部分でしかありません。そのとき、標準化されていることが、結果を整理したり、解釈するときに大きなウェイトとなります。

ここで言う標準化には2つの意味があります。1つは、手続きが標準化されていることで、これによって等質的な検査が実施できます。もう1つは、テストそのものが等質的なもので、ちゃんと測りたいものが測れるようになっているということです。心理ゲームと心理検査の最大の違いはこの点にあります。

たとえば、小学校に入ってきたばかりの子がいたとします。その子はなかなか勉強についていけません。

このとき、標準化された心理検査を用いれば、ある程度の推測は可能です。たとえば、知能検査のスコアは高いけど、不安尺度も結構強いなどの結果が得られれば、情緒的に何かあるのではないか、とか考えられるわけです。

標準化がなされてないとこうはいきません。そのため、心理検査、特に質問紙を作るときは常に、それが信頼に足りるものなのかどうかという信頼性と、ちゃんと測りたいものが測れているかという妥当性が問題となり、使用の際にもこの点には常に注意を払う必要があります。

代表的な知能検査にはビネー式とウェクスラー式があります。詳しいことは[心理測定法−知的能力の測定]の所に書いたのでそちらを見ていただくとして、ここでは具体的な判断の基準について書きましょう。

ビネー式の場合、精神年齢 M.A.と生活年齢 C.Aとの間の比によって、ウェクスラー式の場合は動作性IQと言語性IQの総和によって、知能指数 IQが求められます。どちらもいろいろありますが、平均は100です。

とはいえ、ビネー式とウェクスラー式では、IQの意味がまったく異なります。ビネー式ではあくまで年齢で見たときの発達的位置なんですが、ウェクスラー式では、集団の平均からどれだけ逸脱しているのか、それを表す指標としてIQが示されています。ですから、2つのテストを施行して、2つのIQ値が大きく異なったとしても、それは意味が違うことを言っているので、気をつけなければいけません。

ここで、知的能力の遅れについて1つの尺度を取り上げましょう。これはAAMR(米国精神遅滞学会)による分類で、精神遅滞のレベルを決めるときの1つの尺度となっています。ここではそれを簡略にして載せますが、これによると、

50-55〜70 軽度精神遅滞
35-40〜50-55 中度精神遅滞
20-25〜35-40 重度精神遅滞
20-25以下 最重度精神遅滞

とされます。

日本ではこれとは別に「精神薄弱」を定義する尺度があります。精神衛生上ではその基準が用いられているんですが、ここではあくまで上のものを参考にしてください。

というのも、精神遅滞の定義によると「発達期(-18歳)に現れ、平均水準以下の一般的知能、適応障害が同時に現れる」ものの事を指すからです。これは非常に適切な定義であり、知的機能の低下だけでは精神遅滞とはいえないことを示しています。

知的機能は知能検査によって調べられます。しかし、もう1つの適応については、年齢に応じた社会的責任をどれだけ果たせているか、自立がどのくらいできているかなどの点なので、簡単には調べられません。

精神薄弱という言葉にはこのような事情があまり見えてきません。基準自体も上よりかなりゆるくなります。また、世界的にはまったく使われていない用語です。このような点を踏まえて、ここでは精神遅滞を使いました。

ここからは性格検査について述べましょう。これも詳しくは[心理測定法−性格検査]をごらんください。

質問紙による性格検査の場合、それにはかなりゆがみがあるかもしれないということを念頭に置くことがまず重要です

特に、私は将来のことを考えている、のような社会的望ましさが求められるような項目の場合、実際にはぜんぜん考えていなくても、考えているように答えたほうがよく見られるので、そう答えてしまうということが結構見られます。

こういうものは質問紙のほうでも「逆転項目」といって、よく答えたものほど得点を低くするなど、いろいろな対応をしているんですが、それでも完璧ではありません。

このため、よく妥当性を調べるためのテストも一緒にやったりします。また、MMPIなどの心理検査では、最初からそういう項目が含まれており、そういうものを利用できます。

とはいえ、それでも完璧ではありません。それに、性格検査の質問紙はMMPIの550問のように、回答に時間がかかったり、数がやたら多かったりして、非常にエネルギーが必要なものが数多くあります。

ですので、適切な質問紙を選択して、それを適切な方法で施行することが非常に強く求められます

また、質問紙はあくまで一部分しか見せないことをよく考慮して、投影法などの別の心理検査も併用しましょう。最終的には全人格的判断しなければ、ちゃんとしたアセスメントにはならないからです。

質問紙は手軽で、なれてしまえば誰でもできるので、その分、扱いが難しいものといえます。うまく使っていきましょう。