心理学のお勉強

臨床心理学

統合失調症(精神分裂病) Schizophrenia.


今回から数回はさまざまな精神障害を精神医学、臨床心理学の立場から触れていきます。今回はその第1回「精神分裂病」です。

精神分裂病は非常に恐ろしい病気のように思われていますが、実際はそんなことはありません。もともとこの名前はインパクトが強すぎるのです。2002年になってこの名前を「統合失調症」に変えようという動きが出てきました。でもそれは逆に、名前が強すぎる割には理解が進んでいないことを表しているといえます。

精神分裂病は精神病のカテゴリに属します。その定義は非常に難しいですが、日常普通なら体験することがない「幻覚」や「妄想」などが症状として現れてきたり、「平板な感情」や「まとまりのない行動、思考」などが現れてきて、これらが一定の経過を経て、あるまとまりを作ったとき、それを精神病と呼ぶ、といえるかもしれません。単一の疾患ではないということ、そして歴史的な背景の点でうつ病などの気分障害や不安障害などとは分けられます。

もともと19世紀末にクレペリンによって「早発性痴呆」と名づけられて以降、この病気にはいい名前がついていません。このときクレペリンは、青年期に発症して慢性の経過を取り、最終的には人格崩壊まで進んでしまうという点で「痴呆」という名をつけたのですが、これが20世紀の頭にブロイラーの手によって概念が拡張されます。このとき、当時の連合心理学の考え方が関係して、「精神分裂病 schizophrenia」(schizoは解離とか分裂、phreniaは心とか精神の意)という名がつきました。

当時の心理学の考え方では、心というものは連合機能が基本に据えられていました。それが障害を起こして、心的機能の結びつきが緩み、人格が統一しなくなってしまう、これがもともとの精神分裂病の意味です。ですから、人格が分裂してしまう多重人格(解離性同一性障害)とは全然違いますし、そう考えるのは大きな間違いです(部分的な症状として多重人格が見られることはありますが、それはあくまで一症状です)。

症状としては前に上げたとおり、妄想や幻覚、平板な感情、そして連合心理学の言葉でいう連合弛緩、つまり、思考を支える理論が乱れたり、それによって思考に障害が出てきます。妄想の内容としては、自分の身の回りに起きていることを直接は無関係なはずの自分と結び付け、それによって被害を受けているとする、要は被害妄想が一番多く、幻覚としては幻聴が主として見られます。連合弛緩は話にまとまりがなかったり、言葉に全然意味がなかったり、思考が止まってしまう思考奪取などに現れ、感情も表面的には全然ないように見えます。ただ、妄想などにつられて笑ってしまったり、反応してしまうことはあるため、周りから見ると、非常に唐突で奇妙に見えます。こうなると、社会的な機能も失われ、対人関係から引きこもるようになります。

このような症状のうち、正常の機能の働きすぎと思われるもの、つまり幻覚や妄想(知覚や思考の働きすぎ?)は陽性症状といわれ、発症して間もない急性期によく見られます。そこにそのうち、正常の機能が減退して起きると思われる、感情の平板化や引きこもり、意欲や自発性の低下といった陰性症状が現れてきて、陽性症状と陰性症状が混じるようになると、病気としては慢性化しある程度安定していくようになります。

ですから、DSM-4による精神分裂病の診断基準もそれにあわせてこのようになっています。

特徴的な症状である(1)妄想、(2)幻覚、(3)解体した会話、(4)ひどく解体した行動、または緊張病性の行動、(5)感情の平板化、思考の貧困、意欲の欠如などの陰性症状のうち、2つ以上のものが1月以上続いており、また障害全体として、半年以上続いている。

ここには社会的、職業的な機能の低下も見られなけばなりません。また、他の身体疾患や精神障害によるものは除去されます。

この上で、精神分裂病はいくつかの種類に分けられます。そのうち1つが妄想や幻覚などが目立つ妄想型であり、思考や感情の障害が強く引きこもりがちな解体型であり、周囲に対する反応性が下がったり、逆に興奮する緊張型です。解体型は若い人に多く見られるため、破瓜型とも言われます

たとえば解体型では最初、学校に行かなくなったりします。ただ、登校拒否とは違い、それに意思はありません。あいまいです。そのうち、自分の部屋に閉じこもるようになり、食事や身なりがだらしなくなったりして、部屋がぐちゃぐちゃになり始めた頃、親が気づいて、病院に連れて行こうとします。すると、本人は何で連れて行かなければならないのか、それを理解できません。これを病識の欠如と呼び、急性期の97%の人がこの症状を起こします(WHO調べ)。うつ病などとの大きな違いはここです。うつ病などではある程度自分でもおかしいと思うことがあります。ところが精神分裂病はその意識すらないのです。

病院で診察をすると、時々くすくす笑ったりします。それがなぜかをたずねると、「そこに人がいて冗談を言うんです」なんて風にはっきりと妄想が現れてくることがあります。こうなれば、ある程度診断は下せるといえるでしょう。

精神分裂病を疫学的に考えれば、140人に1人くらいの割合で発症し、これは決して高い数とはいえません。また、性差はありません。発病年齢は青年期前半である15歳から後半である35歳くらいまでに集中し、それ以下、それ以上ではきわめてまれです。このため、病気の成因としては環境的な問題と共に、遺伝的な要因も考えられています。

この精神分裂病の人の多くは入院することなく、通院治療で十分に日常生活を送れる人たちです。また、普通に生活しても基本的には問題ありません。そのため多くの場合では、通院による薬物治療と、心理療法が組み合わされて治療が施されます。このとき、フロイトの精神分析療法は適応外です。このような自己洞察を目的としたものは向いていません。どちらかといえば、認知・行動療法のほうが向いています。

また、精神分裂病では家族へのアプローチが大きな効果を生むことがわかっています。そのため、家族に対して働きかけを行って、できる限り感情表出を抑えるよう(過度に批判しない、干渉的にならない等)指導します。このことが再発を抑えることに効果があることが統計学的にも言われています。

これら適切な治療を行えば、精神分裂病は社会復帰が可能な病気です。決して、不治の病だったり、怖い病気ではありません。どちらかと言えば、周りの人がそう思っている、それが生む差別や偏見のほうが問題です。もともと、名前を変えなければいけなくなった理由の一つに、それがあります。

精神分裂病を適切に理解していただきたいと思います。