心理学のお勉強

心理学の基本

ことばと思考


人はコミュニケーションの道具として「ことば」を使います。そして、それを使っていろいろなことを「考えます」

言語は、1) 話者の考えを聞き手に伝える、2) 考えるための道具として使う、3) 小説などの創作活動にも使われる、という点で、知的能力や創造的能力をもっとも高度に発揮した活動といえるでしょう。

そのうち、話し言葉は耳から、書き言葉は目から入ってきます。このうち話し言葉に関しては、単語の切れ目などの目印(、。といったもの)はありません。しかし、日常それに戸惑うこともありません。これは言語理解構造が非常にスムーズに処理を行っていることの現れです。これを少し混乱させてみましょう。

意地悪な例文

サンプルのまま、区切りなく読んでみます。たぶん、人によってその捕らえ方が異なるのではないでしょうか。

これは耳から入ってくる情報を処理する過程を混乱させる文章で、どこで区切って読むかによってその意味がまったく変わってしまいます。

たとえば、今飲んでいて、その人に話を聞いたのなら、「かねをくれた、のむ」かもしれません。しかし、明日にもつぶれそうな会社の社長が友達のところに懇願しに行っている、という状況なら「かねをくれ、たのむ」なのかもしれないわけです。

このような文章は、通常の処理過程(ある単語が言われてから250msec(4分の1秒)後には次に来る単語が特定できているというくらい高速なもの。つまり、実際に相手が何か言う前に、もう次にどんな言葉がくるのかわかっているというすごもの)を混乱させてしまう、と言われています。

では、このような文章や、書き言葉は日常どうやって判断しているのか。これについては、仮説ではありますが、「常識的な知識」や「経験」、それを使って「推論」が行われているのではないか、と考えられています。

簡単に「目標と計画」というものを使って考えてみましょう。

たとえば、「おなかがすいた。冷蔵庫をのぞいた」という文の場合、「食べるものを手に入れる」という目標のために、「冷蔵庫を開ける」という計画を実行するだろう、と簡単に理解できます。この目標と計画を、今までの経験とか、常識的な知識に照らし合わせて、文章を理解しているのではないか、というのです。

これらの言語を使って行われるのが考えること、つまり「思考」です。思考のすべてが言語によって行われているわけではないかもしれませんが、少なくても人間が理解できる形の多くは、言語によるものが大きいでしょう。

ここではまず、その中から有名なひとつの「問題」を取り上げてみます。

推論問題その1

上の問題は「4枚カード問題」と呼ばれるもので、確認しなくてもいいはずのものを、確認してしまう現象が見られる問題です。しかし、これの重要なことは、そのことではありません。これとおんなじような、下の問題を見てみましょう。

推論問題その2

この問題も基本的には、前の問題と同じです。しかし、同じような設定なのに、日常生活に密着した問題にすると、問題の正答率が高くなる、ということが発見されたのです。

また、こんなような文についても考えてみましょう。

(1) お昼頃、電車に乗っていたとします。すると、車内で一人の人が倒れました。よく見るとその人は、どうも病気のようで、気持ちが悪そうです。

(2) お昼頃、電車に乗っていたとします。すると、車内で一人の人が倒れました。よく見るとその人は、お酒を飲んでいるようで、そんなにおいもしています。

この2つの文章を読ませたところ、(1)では「大変だ、かわいそうだ」というような気持ちを、(2)では「嫌悪」の気持ちを引き起こさせました。

また、こんな問題もあります。「最初がaではじまる英単語と、3番目がaである英単語、どっちが多い?」

これはもちろん、3番目がaのほうが多いはずです。しかし、多くの人が最初がaではじまる英単語、と答えてしまう、というそうです。

これらのことは、「帰属推論」や「経験則」ということで説明されていますが、ここで大事なことは、物事を考える、その基本にはどうも三段論法のような「論理性」ではなく「経験則」に基づくところが大きい、そして「導く規則」のようなものだけでなく、個々の「事例」が思考にかなり重要な役割があるのではないか、ということです。

そしてまた、思考と感情とは密接なかかわりがある、ということも興味深いことでしょう。

言語や思考については、認知科学によって明らかにされつつあります。たとえば、文化によって「言葉に関する知識」が違ったりすることが見出されています。また、最近の研究で思考過程の新しい理論も作られつつあります。しかし、まだ全体を説明できるだけの完全なものはありません。今後の研究が待たれます。